musashiman’s book review

一般の話題本や漫画を紹介しています。

Book(Manga).ある名もなき女性の一代記、伊勢湾台風完結編 浦沢直樹「あさドラ!(2)」

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「連続漫画小説 あさドラ!(2)」
浦沢直樹著、小学館

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 浦沢直樹先生の「連続漫画小説 あさドラ!」は「週刊ビックコミックスピリッツ」に名作「21世紀少年」以来、11年ぶりに連載を開始した漫画で、浅田アサという12歳の少女が主人公です。このほど第2巻が発売されました。
「連続漫画小説 あさドラ(1)」の冒頭は2020年の東京に災害が発生する衝撃的な幕開けから、1959年に名古屋を襲った伊勢湾台風の画面へと一転します。被害を受けたアサは、南方での戦争経験者で7人の乗組員を無事に故郷に運ぶために、敵の攻撃を受けながらも陸上攻撃機(飛行機)を操縦する男に誘惑されてしまいます。男は日本に帰国後、仕事に失敗し路頭に迷っていたのです。しかし、そんな二人に容赦なく台風が襲ってきます。台風は東日本大震災を彷彿させるような絵として全編を通して描かれています。

連続漫画小説 あさドラ(2)」では男とアサが飛行機に乗りながら、雨水に沈んだ家の屋根から被災した住人たちに救援物資を届け続けます。浦沢先生はラジオ番組「純二と直樹」(文化放送、毎週日曜日 午後5時放送)の中で同巻の漫画について「実際に飛行機が飛んでいるように描きたかったから、飛行機のプロの方にもいろいろお話を聞いた」と話しています。漫画を実際に読みながら、読者が空を飛んでいるような感覚になるスピード感のある展開になっています。

また、第16話「ふりむかないで」では、漫画の中のあるシーンでザ・ピーナッツの歌をバックに女性がダンスする姿を描いていますが、設定曲を間違えて描いたことに締め切り日前の夜中の3時に気づき、描き直したというエピソードも披露しています。
 得体の知らない何かの爪痕が出てきたり、どこかミステリアスでスピード感のある漫画ですが、今後、アサがどのように成長していくかも注目されます。

 
 

どこか謎も多い作品

「アサドラ!(2)」の冒頭は探検隊が密林を探検しながら、ある木についた爪痕に驚愕するシーンからスタート、やがて、アサたちの被災した1964年の場面へと移ります。アサを誘惑した男は飛行機を操縦しながらも、やがて手に負った怪我が原因で操縦できなくなりアサに命じます。予想できない方向に物語が次々に展開するので、ドキドキ、ハラハラします。
 
 冒頭に出てくる謎の巨大生物の爪痕で思い出されるのは、4月末に発売された短編集「くしゃみ」で描かれた「怪獣王国」です。この漫画では巨大な怪獣が観光都市の東京を襲う内容が描かれていますが、やがて、この怪獣に毅然と立ち向かう者が現れます。
 この作品集には「DAMIYAN!」「月に向かって投げろ!」「親父衆」「いっつあびゅてぃふるでぃ」など8編が収録されています。「いっつあびゅてぃふるでぃ」はフォーク歌手で友人の遠藤賢司さんから聞いた話を漫画化しています。

なんと驚くことに、井上陽水さんや遠藤さんたちが無名時代に、地方の公演後に出かけたストリップ劇場でのエピソードがノスタルジックに描かれているのです。他に手塚治虫文化賞記念ムックに書いた作品など読み応えのある作品がラインナップされています。
 

強い女性を描き続ける

Commentブログ筆者
 浦沢先生は手塚治虫文化賞大賞を2度受賞している唯一の漫画家で、コミックスの売り上げが国内で1億2700万部以上を発行しています(ウイキペディア)。本業の漫画だけでなく、大学教授やラジオのDJからテレビ番組出演まで幅広く活躍しているので、漫画好きはもちろん、一般の人でも知らない人はいないのではないかと思います。
 
 2015年から17年まではNHKのEテレでは浦沢先生が、活躍中の漫画家にインタビューしながら、創作秘話や創作模様をドキュメントで放送する「漫勉」も放送されました。ご本人の特集「漫勉 浦沢直樹」では、本人が「BILLY BAT!」の最終回のネーム入れ、ペン入れまでが映像として公にされました。
 
 「BILLY BAT!」最後のシーンでは少年が本を高く掲げるシーンが3度の下書きを経て描かれる様子を放送しています。「本が本当に大事でした。図書館で小学生の女の子が本を開いて、驚いたり関心したりする様子を見たことがあります。本がその人を変えたり、救ったりすることはあると思います。そういうものを創りたいですね」と番組の中で、浦沢先生は、本を掲げる少年のコマについてのエピソードを話しています。
 
 浦沢作品には「MONSTER」「MASTERキートン」とは対照的に「Happy!」や「YAWARA!」など少女や女性を主人公にした漫画が多いのも特徴の一つです。「連続漫画小説 あさドラ!」も女性が主人公です。
 常に時代と呼応するテーマを設定してきた浦沢先生が新作で描くのは、災害に遭遇しながらも負けずに懸命に生きようとする女性の一代記です。今後の展開が楽しみな作品です。

関連本

Book.<斬新な企画やアイデアはこうして生み出す「『面白い』のつくりかた」>

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「面白いのつくり方」
佐々木健一著 新潮社)

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 仕事でプレゼンテーションを成功させたい、営業で商談を成功させるために営業力を強化したい・・・はビジネスパーソンに多い悩みです。仕事では他人から自分の提案する内容が「面白い」と思われ成功するケースは多々あります。
 「『面白い』」のつくりかた」(新潮社)は、長年にわたり「面白い」を追求してきた著者の佐々木健一さんが、そのノウハウ、発想法を披露しています。
 佐々木さんはNHKエデュケーショナルのディレクターとして、気象学で世界を救った人物やえん罪弁護士などを特集したドキュメンタリー「ブレイブ 勇敢なる者」(NHK総合)などの番組を企画・制作してきました。著作も多く「辞書になった男」「背番号を背負った男」などがあります。「『面白い』」のつくりかた」でも、佐々木さんがアイデア力をつけるために参考になった著書も紹介しています。

 


 インターネットの登場以降、Netflixや「Amazonプライムビデオサービス」などネット系動画配信サービスやニュースが増加し「テレビは以前に比べて面白くない」と感じている人は多いと思います。
 しかし、かつての勢いを失いながらもテレビはいまだ健在で、影響力が大きいことも事実です。検索ワードランキングや「Twitter」のトレンドでは、テレビ番組やテレビタレントの話題が上位を占めています。YouTubeで100万回再生された動画でも、テレビの視聴率は1%にしか過ぎません。
 なぜ、オワコン(終わったコンテンツ)と揶揄されるテレビは終わらないのか。大方の予想に反してしぶとくテレビは生き残っているのです。これらの理由も含め、映画やテレビ番組のヒット作品の生まれた背景や過程を、佐々木さん自身の体験も交えながら披露しています。

面白いは差異に関係

「面白い」「人の心を動かす」とはどんな感覚でしょうか。予想していたことよりも「驚き」「ギャップ」「意外性」「落差」の「差異」があった場合、人は心を動かし楽しいとか、悲しい、面白いと感じる。つまり、「差異」が深くかかわってくるのです。そして、そこでは深い「共感」へと導くものが重要になってきます。
 
 では、どうしたら、「面白い」企画やアイデアは生まれるのでしょうか。「世の中の新しいものは、全て組み合わせから生まれる」といっても過言ではありません。例えば、「ポケモンGO」はスマホ向け位置情報ゲームアプリ「Ingress」と「ポケットモンスター」の世界観を組み合わせたものです。足し算や掛け算だけでなく引き算の組み合わせでは、Twitterは、従来のブログ機能にあえて、「文字数を1回の投稿につき140字に制限する」サービスです。
 
 また、「クリエイティブ」な発想や仕事とはどんな内容をいうのでしょうか。直訳すれば「創造的な」「独創的な」という意味ですが、映画監督の黒澤明さんは「創造とは記憶である」と大島渚監督との対談の中で述べています。つまり、様々な経験を積み、先人の仕事を知り、学ぶという蓄積がなければ、クリエイティブな仕事もできないということになります。もちろん、ただ先人の真似をしたりコピーするのではなく、教えられた通りではなく、独自の方法論を実践できなければなりません。
 そして、何よりも求められるのは構成力です。「始まり」と「終わり」の間をどんな展開にするかによって、物事の伝え方やコンテンツ内容はガラリと変わってしまうのです。構成力は根本的な要素になります。
 

差異と共感の内包

Commentブログ筆者

「『面白い』のつくり方」でも2015年ラグビーW杯で日本ラグビー代表が、当時の優勝候補だった南アフリカ代表チームに勝利した話題を挙げていますが、今年のラグビーW杯では、もっと驚くことが起こっています。日本代表が3連勝(10月5日現在)しているのです。
 
 この状況は日本はラグビー弱小国だったと感じている国民に驚き(差異)を与え、最大の関心事となっています。10月5日のサモア戦の平均視聴率19.3%、瞬間最高視聴率25.2%(ビデオリサーチ)は、国民の約4分の1である2500万人がテレビで観戦していたことになります。
 それまで負け続けていたチームが、強敵に勝利するという「差異」が大きければ大きいほど、関心事は高まりフアンは増えていくのです。もちろん、この4年間に日本チームがどのように強くなってきたかは、これからさまざまに注目されることです。
 
 また、佐々木さんは著書の中で東海テレビのドキュメンタリー番組が話題になることが多いことを例に挙げながら、根底には世間の常識や先入観との「差異」と「共感」を内包していると指摘しています。
 そういえばブログ筆者が、どんなに忙しくても決して見落とさないテレビ番組に、フジテレビが毎週日曜日に放送している「ノンフィクション」があります。この番組もドキュメンタリー番組です。番組によっては、10年の歳月をかけ追いかけているものもあります。
 テレビ番組が、NHK以外になかなかドキュメンタリーや調査報道番組が制作されない状況になっている中で、民放のドキュメンタリーは貴重ですが、やはり、この番組にも「差異」と「共感」が内包されているのかも知れません。 

関連本

Book.災難を近づけない技がある「『<人生の災害>に負けないマインドレスキュー』」

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「人生の災害に負けないマインドレスキュー」
(矢作直樹著、山と渓谷社

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 病気やけが、肉親や親しい人の死、離婚、過労、リストラ、失業・・・そして災害。私たちは毎日の生活をおくりながら、数々の試練にさらされます。なかでも最近、特に増えているのが災害です。地震津波、火山噴火、台風や大雨による洪水、土砂災害など、日本は自然災害が発生しやすい国です。
 「『<人生の災害>に負けないマインドレスキュー』」(矢作直樹著、山と渓谷社)では、マインドレスキュー(心の救済)をテーマに、元救急・集中治療、内科医の矢作直樹先生が、東日本大震災をはじめとするさまざまな事例から、自然災害はもとより、突如に襲ってくる「人生の災害」を乗り切るために必要な考え方、心構え、災難を近づけない技などについてまとめています。
 矢作先生は元東京大学大学院 新領域創成科学研究科環境学専攻および工学部精密機械工学科教授で、2001年から16年まで同学院医学部付属病院で救急部・集中治療部部長として東大病院の総合救急医療体制の確立に尽力。現在は東京大学名誉教授

 


  マインドレスキューを考えるなかで忘れられないのが、東日本大震災だといいます。それは数多くの人が一気に亡くなったことで起こった霊的な現象であり、この先、何十年にもわたり影響を及ぼし続ける放射能の問題、家をなくし家族や知人をなくした人々の今後の生き方や心の持ちようなど多くの問題は、被災された方々だけでなく、私たちに共通した問題でもあります。
 東日本大震災では震災後に被災地では数多くの怪奇現象の体験談や、目撃談が聞かれました。「霊性の心理学」(金菱清著 新曜社)は、被災地の生と死につて現場の状況をレポートしたノンフィクションですが、この本には多くの幽霊の話が登場します。
 これらは亡くなった人たちの魂が、われわれとともに今も生き続けていることの証拠でもあり、死後の世界の捉え方が変化する契機にもなります。人は死んだらどうなるのか、死に関しては不安に感じることはない、肉体は死んでも、人は死なないと書いています。困難にも挫けずに、前に進める一冊です。
 

何事にも動じない心

生きて社会に参加している以上は、いろいろな死に方があるのは当然だと矢作先生は喝破します。天災、事故、事件など、どんなきっかけであれ、生きている以上は、死ぬのは仕方ないと思わないと救われません。死を免れ生き残った人は、過去のことをくよくよしたり、悩んではいけません。いまを全力で生きることが大切です。そのためには何事にも動じない心を持つことが大切だといいます。
 
 その点では武士としての心構えは、何が起きても慌てない生き方の道標と言えます。神道では森羅万象に神が宿ると考えられていました。仏教などでも人間だけでなく、山川草木や生類にはすべて仏性があると考えられてきました。神道や仏教、武士道の考え方を持った人は明治維新前に多かったですが、これらの精神を参考にしながら、全力で生きることが大事だと説いています。
 また、天災も交通事故や殺傷事件のような人災も、すべてが因果の中で起こっていると理解して、すべての人が現世とあの世でいろいろな役割を分担している中で、今回はそういう役回りになったのだと思うことも必要です。大切なのは「中今(なかいま)」、失敗したことを後悔したりせず、つらい思いを引きずることなく、過去にとらわれずに、たった今を生きることだと書いています。
 

私たちの身体は借り物

Comment ブログ筆者
 ブログ筆者が矢作先生のことを知ったのは8年前に発売された「人は死なない~ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索」(バジリコ)でした。救急・集中治療、外科、内科などで多くの患者の診察をてがけてきた矢作先生が、自分自身の医者としての想いや、仕事を通じて患者から聞いた非日常的な現象や霊性について考察した著作です。
 
 それまでの経験から、いわゆる自分を超えた存在については関心がありましたので、タイトルを見てすぐに購入し一気に読了しました。この本では患者さんが先生に語った臨死体験や体外離脱体験も書かれ、人が肉体だけの存在ではないことを述べています。
 
 既に幽体離脱臨死体験についてはアメリカの精神科医であるエリザベス・キューブラロスやジャーナリストの立花隆さん、坂本政道さんなどが著書で発表していましたので珍しい話ではありませんでしたが、現役(「人は死なない」発表当時)の日本人医師による著書を読むのは初めてでしたので感動しました。
 
 また、「自分を休ませる練習~しなやかに生きるためのマインドフルネス~」(文響社)では以下のようにも著しています。
 「からだは借り物です。私たちは混沌とした世界を生きる上で、からだを一時的にお借りしています。どこから?もちろん、天から。創造主からと考えてもよいでしょう。まずはこの事実に気づくこと。気づけばこの先、もっとからだを大事に扱えます」。
 どうでしょうか。このような発想、少し楽になりませんか。

関連本

Book.「Yahoo!ビッグデータで分かった日本の新事実『ビッグデータ探偵団』」

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ビッグデータ探偵団」
安宅和人、池宮伸次、Yahoo!ビッグデータレポートチーム)

Over view  ビッグデータという言葉を知っている人は多いと思います。でも、このデータがどのような方法で活用され、何が分かるのかを知っている人は少ないではないでしょうか。「ビッグデータ探偵団」(安宅和人、池宮伸次、Yahoo!ビッグデータレポートチーム著 講談社)は、ビッグデータがこれからのビジネスを考える上で、また、私たちの生活をより快適なものにするために役立つのかを、ヤフーの「マルチビッグデータ」をもとにレポートしています。 
 
 ヤフーがこれまで展開してきたサービスは検索や地図、ニュース、ショッピングなどサービスは100種類に及びますが、ビッグデータレポートの第一弾になったのが選挙予測です。2013年の参議院選挙の議員獲得数では的中率96%という高い数値となりました。
 以降、「景気判断」、「妊娠、出産を控えた女性の悩みを解決するもの」「熊本地震のデータから作成した災害対策を目的とするもの」「都道府県別の交通利便性の把握の未来の混雑情報の予測を目指すもの」「日本音楽の歌詞の特徴」など公開してきたレポートは多岐に渡っています。
 

本書ではビッグデータが本来の価値を発揮するためには、生身の人間の力が不可欠だとしながら、ビッグデータはコンピュータやAIの活用なしには作成できないが、あくまで最終的に必要となるのは、生身の人間の感じる力や決める力、そして伝える力だと強調。データを分析し、意思決定に役立てていく「データ・ドリブン」の思考力、分析力、情報科学の基本、データの力を解き放つ力を会得し、応用できる人がこれからの社会を生き抜いていけるとしています。
 著者の安宅和人さんは慶応義塾大学環境情報学部教授、ヤフーCSO(最高サステナビリティ責任者)でYahoo!ビッグデータレポート統轄、池宮伸次さんはYahoo!ビッグデータレポート編集長を務めています。Yahoo!データやオールカラーの図版をふんだんに使用し、タイトル付けなども工夫されていますので、とても読みやすい内容となっています。

 

役立つビッグデータ

「第1部ビッグデータは深層を描き出す」では「新社会人の心情」「育児をする女性の悩み」「頭が痛い日本人が多い時刻」などを検索データをもとに公開。「育児をする女性の悩みや思い」などについて分析した「ママは、生後102日目にわが子をモデルへ応募したくなる」では、女性が子供を出産したあとで、夫へのイライラが最も気になるのは生後45日目頃、子供の指しゃぶりが気になるのは生後56日目頃、そして、ママがわが子をモデルへ応募したくなるのが102日目頃だと分析しています。これら育児に関する悩みやニーズをカテゴリごとに分類したのが「育児キーワード群のカテゴリーツリーマップ」です。

育児キーワード群のカテゴリーマップ(資料 Yahoo!検索)


 
 「第2部 ビッグデータはこんなに役立つ」では、「これからの交通混雑ぶりがわかる」「救援活動をスムーズに進める、隠れ避難所を探せ!」「今の景気を予測することは、どこまで可能か?」などで構成。「救援活動をスムーズに進める、隠れ避難所を探せ!」では、2016年4月に発生した熊本地震で誰がどこに避難しているのかが分からず、救援物資を受けられないという混乱が生じたという課題に対して、ヤフーの「位置情報」データを活用し問題解決に取り組んだことを、豊富なデータをもとに説明しています。
 

Comment ブログ筆者

ユーザーの買い物データを企業がマーケティングに活用しているという話はよく聞きますが、気象情報や世の中の出来事(ニュース)、自分が関心のある物事や場所、ショッピングについて、日ごろからインターネット上で検索して確認することがあたり前になった現在、これら多くの情報がどのように作成されアップされているかを理解できる人は、一般ネットユーザーでもそう多くはないと思います。ネット関連の仕事に就いている人か専門家でなければ、なかなかそこまでは分かりません(他の業種でも同じことが言えます)。
 

話題のビッグデータがどのように活用されているかも同じです。AIの登場でビッグデータがさまざまに活用されているとは聞きますが、さて具体的にどう分析されネットでデータとして活用されているか、その裏側を知る人は少ないのではないでしょうか。
 
災害などの緊急事態にも貴重な情報提供
 本書では検索エンジン大手のYahoo!ビッグデータ活用事例と作成過程を、作成に関わる人々のエピソードも交えながらレポートしています。作成には時間のかかるものも多いですが、ユーザーが一瞬にして、状況を把握できるというのが魅力です。
 

やはり、災害などの緊急事態での活用が注目されますが、16年に発生した熊野地震で「隠れ避難民」がどこにいるかを確認できたことの功績は大きいですね。今年に発生した台風15号では被害を受けた千葉県で停電が発生したため、せっかく届けられた救援物資が、住人に届けられなかったようですが、停電さえ長引かなければ、この問題も解決できたのではないかと思います。
 生活に身近な情報から、政治経済、文化まで多くの情報をもとにアップされるビッグデータの見方が分かる一冊です。

関連本

Book.マラソン日本記録保持者 大迫傑の思考法「走って、悩んで、見つけたこと」

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「走って、悩んで、見つけたこと。」( 大迫傑著、 文藝春秋

Overview
 2018年10月にアメリカで行われたシカゴマラソンで、2時間5分50秒でゴールした大迫傑選手はレースでは3位でしたが、その時点でマラソン男子日本新記録保持者となりました。以降、現在(19年9月23日)まで記録は破られていません。
 9月15日に東京で開催された「マラソングランドチャンピオンシップ」(MGC)では、レース37キロ以降に中村匠吾選手、服部勇馬選手とデッドヒートを繰り返し、2位の服部選手と5秒差で3位入賞。20年東京オリンピック代表選手の内定決定は先送りとなりましたが、今後のレースが期待される白熱したレース内容でした。

 

現在も来年に東京で開催されるオリンピックのマラソン代表の3人目に一番近くにいるのは、大迫選手です。 その大迫選手がマラソンについて書いたのが、「走って、悩んで、見つけたこと」(文藝春秋)です。大迫選手は早稲田大学時代は箱根駅伝に4回出場し、11年と12年の2年間には区間賞を受賞。その後は箱根駅伝MGCでも競った設楽悠太選手と同じように実業団に入り走り始めますが、翌年には渡米しナイキ・オレゴン・プロジェクトに所属しトレーニングを重ねるようになります。
 
 今回のMGCでも見せた一見、無表情とも思える表情は駅伝選手時代と変わりませんが、白い帽子の下に隠れた丸坊主頭には、レースに向けた勝負への並々ならぬ覚悟を感じました。なぜ、大迫選手はマラソンランナーとして日本記録保持者へと登りつめ、今、オリンピック代表選手候補として注目されるまでになったのか、プロランナー・大迫選手のランナーとしての生きざまや考え方を知ることができます。(以下、一部を紹介。本書では写真も数多く使用しています)

「きつい」のはどこか

大迫選手にとって「マラソンを走るということ」とはどんなことでしょうか。
トラック競技はフィジカルが80%、それがマラソンは60%、メンタルが40%の比率になります。だからメンタルに関してのトレーニングはできるだけやっています。
 
 練習で「きつい」と感じることがありますが、「きつい」という感覚は主観的なもので、「今きついのはどこ?」と問いかけると、身体全体が「きつい」わけではないことに気づきます。大切なのは常にポジティブで平常心であること。初マラソンボストンマラソンでは、そういうレースができて、結果を残せたのです。
 
 それでもレースによっては辛い、やめたいと思ってしまうこともあります。そういうときは「練習でも勝ってきたし、これだけ走れたのだから残りも大丈夫」などとポジティブな方へと意識を持っていくようにしています。(本書から抜粋し構成しています)

辛い時期を耐えれるか

なぜ、大迫選手はここまで強いランナーに成長したのでしょうか。
 走りがいい選手はいくらでもいます。最低限の走るセンスは必要かも知れませんが、それ以上に大事なのは生き残る力だと思います。どういう選手が生き残れる強さを持っているのか。それは一概には言えませんが、辛い時期をいかに我慢できるかということは すごく大事です。
 
 どんなに環境が変わっても、順応するまでには単純に耐えるしかありません。一番辛いところを2か月で乗り越える人もいれば、1年かかる人もいます。そこまで我慢できるか、できないかの違いです。環境が変われば孤独感は強まるし、この先どうやっていけばいいのかという不安もあります。だけどやることさえやって耐えていれば、いずれは絶対に慣れます。高校時代はすごくきつかったですけど、強くなるには耐えて、ひたすら練習するしかないと思っていました。(本書から抜粋し構成しています)


 

Commentブログ筆者

 MGCで見た大迫選手の珍しい姿

今回のMGCに出場する寸前の大迫選手を見たとき、髪の毛を丸坊主にした修行僧のような風貌に並々ならぬ、レースに賭ける覚悟を感じました。その7か月前の東京マラソンは途中棄権となったがゆえに、このレースへの意気込みは他選手以上にあったのではないでしょうか。
 
 もちろん、MGCでは2位に入賞すれば東京オリンピック出場に内定が決まります。そのような意味では出場選手30人の全員が同じような気持ちで出場していたのです。しかし、勝負は明暗を分けます。37キロ以降に大迫選手は中村匠吾選手や服部勇馬選手とデッドヒートを繰り返し、40キロ以降、ゴールが近づくにつれ3位についた大迫選手は何度か後方を振り返りました。4位の選手がどこにいるかが気になったのでしょう。
 
 大迫選手の珍しい姿でした。それ程に「きつい」レースだったのです。本書でも触れていますが常に「足が壊れたら」次にどうするかを考えなければいけないということも、いかに練習がハードかレースが全てを賭けたものであるかを知ることができるのです。
 
クールな表情の影にある何か
 テレビの放送中に笑顔を見せマラソンのイメージを大きく変えた高橋尚子選手とは違って、大迫選手はあまり顔を見せる選手ではありません。しかし、大迫選手にはこれまでの男子マラソン選手には、あまり感じることのなかったかスターとしての華を感じるのです。それは二枚目の日本記録保持者というだけではない何か・・・・。駅伝時代選手にも感じたクールさの向こうにある「何か」です。
 本書を読み進めるうちに、その「何か」に触れることができるのです。

関連本

Book.アレルギー疾患や免疫機能が低下する遺伝子組み換え食品と農薬基準緩和で「売り渡される食の安全」

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「売り渡される食の安全」(山田正彦著、KADOKAWA

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 いつも私たちは当然のようにおいしいコシヒカリやひとめぼれなどの米で作るご飯を食べています。しかし、このおいしい米を食べられなくなる日が来るかも知れないのです。日本人にとって生きる糧である米を「安心、安全に、しかも安価」で提供することは、「種子法」という法律で定められていました。この「種子法」が国会で審議らしい審議もされず、新聞やテレビで報道されないまま2018年4月に廃止されてしまったのです。
「売り渡される食の安全」(山田正彦著、KADOKAWA)では、元農林水産大臣で弁護士である著者の山田正彦さんが、「種子法」廃止にある政府、巨大企業の思惑を暴き、かつ現場の状況を調べながら、今後の一般市民が食するさまざまな食品や健康に警鐘を鳴らしています。
 

では、「種子法」とはどのような法律なのでしょうか。最大の特徴は栽培用の種子を採取するためにまく「原種」と、大元である「原原種」を栽培、生産し、一般の稲作農家へ供給していくことを各都道府県に義務付けていることです。
 現在、日本でコシヒカリは44府県で栽培されていますが、「原原種」の栽培からこの米が一般家庭に届くまでには、農業従事者の並々ならぬ努力がされていることを知る人がどれ位いるでしょうか。例えば、「原原種」の生産開始から一般農家に稲の種子が届くまでには4年がかかります。また、コシヒカリ新潟県と千葉県で奨励品種として採用されるまでには10年を費やしています。これら栽培なども予算も国が担っていて、この根拠も「種子法」によって制定されてきました。

 
「種子法」が廃止されれば、国は種子を育成しなくてもいいというとになります。では誰が種子を育成するのか。種子を育成するには莫大な時間と資金がかかるために、企業でなければ参入が難しくなります。問題はここからです。現在、遺伝子組み換え産業で有名なアメリカのモンサント社など多国籍企業が、すでに遺伝子組み換えのコシヒカリの種子やゲノム編集された多収穫の米を用意していて、農水省消費者庁が「遺伝子組み換えの安全性は確保されている」と力説しているのです。同著では遺伝子組み換えの種で育成されたコシヒカリが市場に出ていくのは時間の問題とされている、日本の農業現状と問題点を検証しています。
 
 

米国 日本種市場に圧力

17年度の日本の食料自給率は38%、カナダは264%、オーストラリア223%、アメリカ130%で、日本は先進国で極端に低い状況となっています。品種別では小麦14%、大豆28%、畜産物16%で平均値を下回っています。この数字を見てもわかるようにいかに日本の自給率が低く、農産物を海外からの輸入品でカバーされているかが分かります。今後は国内の生産状況も日本独自ではなくなる可能性が高くなるということになります。
 
 19年4月時点で海外に本社を置く多国籍企業は、日本の米の種市場に進出していません。ただ、アメリカは通商代表部を通じて、日本の主要農産物の種子が民間に開放されていないことを問題視して外交圧力をかけてきているのです。その企業の代表として先頭に立つのがモンサント社です。同社はアメリカのミズーリー州に本社を置いていた多国籍企業で、遺伝子組み換え作物で世界的トップシェアを誇示していました。

モンサント製が日本に

日本では1957年に日本モンサントを設立。現在も活動を継続しています。住友化学は14年にモンサントと業務提携することで合意。コシヒカリつくばSD1号と同2号の種子については、住友化学製の農薬および化学肥料をセット販売しています。さらに子会社の住友アグリソリューションズを通じて、農業協同組合農業生産法人につくばSDの種子を販売。
 収穫された米をすべて引き取り、コンビニエンス大手のセブン‐イレブンに販売する体制を確立しています。
 
 モンサント社の生産する遺伝子組み換え食品や除草剤などの商品には、人体への影響があり免疫機能の低下や発がん発生の可能性があることは、これまで何度も指摘されています。18年8月にはカリフォルニア在住の末期の悪性リンパ種と診断されていた男性が、発がんの原因がモンサント社の除草剤を使用していたことにあると訴えた裁判で、サンフランシスコの陪審員は同社に損害賠償金を支払うよう命じました。本書ではアメリカや中国、ロシアの劇的な変化、そしてなぜ、日本は世界の潮流に逆流するのかを検証しています。
 

Commentブログ筆者

なぜ、日本は依然としてノーといえないのか
 モンサント社が発がん性のある除草剤などの製品や、大豆、小麦や種子などの遺伝子組み換え食品を製造し販売していることが問題になったのは20年ほど前だったと記憶しています。にもかかわらず以降、モンサント社の事業は世界で拡大し業績も急成長しました。この状況にブログ筆者は唖然とせざるを得ませんでした。
 
 しかし、世界の潮流は大きく変化していました。現在、中国もロシアも遺伝子組み換え食品を制限し有機栽培による食品を注視しているのです。モンサント社が本社を置くアメリカでさえ状況は一変、同社製を使用し癌が発生するなどの問題を訴える裁判で同社が敗訴するケースが増えています。しかし「売り渡される食の安全」で著者が報告しているように、日本だけが世界の潮流に逆流しているのです。
 
いつのまにか健康食が発がん食品に
 それは原子力発電の問題とイコールなのかもしれません。原発システムが、東日本大震災を契機に日本国内でここまで負の資産を抱えきれないという事態を、誰もが理解し把握できるようになった現在でさえも、原発推進会社の経営陣に対して全く異論を唱えない権力機関が存在する国です。この国は一体、どんな国なのかと疑問を感じざるを得ない状況に一致するのです。
 
 このままでは我々は毎日、口にするご飯やおにぎりが発がん性のある食品にいつのまにか変化していても、健康食だといわれている大豆や豆腐が、発がん性のある種から製造されていることが表示されないことから、発がん商品だと知らずに購入していても、病気の原因が国家政策にあることや、製造元を訴えることができなくなるのです。
 大切な健康や食生活の安全がなぜ失われるのかを考えるためにも貴重な一冊です。

関連本

Book.毎日の健康や病気の理由が分かる体内細胞の日常を描く漫画「働く細胞BLACK(4)」

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「働く細胞BLACK」
(原作・原田重光、漫画・初喜屋一生、監修・清水茜 講談社

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 人間の体内には約60兆個の細胞が働いているといわれます。その中の赤血球や白血球などの働きを中心に擬人化した漫画が「働く細胞BLACK」(原作・原田重光、漫画・初喜屋一生、監修・清水葵 講談社)です。
 「第4巻」では「膵臓」や「帯状疱疹」「痔ろう」「血管」などをテーマに展開。「膵臓」をテーマにした「膵臓インスリン、決壊」では、糖尿病の人物の体内の様子が描かれています。糖尿病は糖分を助けるインスリン(ホルモン)の量が減ったり、正常に働かなくなると血中の糖分が高くなり、さまざまな弊害を発生させる病気です。

 

 赤血球は酵素と一緒に栄養素も運ぼうとしますが、インスリンの量が足りなくなると吸収できなくなります。そうなると、腎臓で血液をろ過する糸球体は、体内で糖分の量が増えすぎ、血液をろ過できなくなってしまうのです。糖分は腎臓でろ過された後も体内で吸収されずに排出されてしまう尿糖が出てしまいます。
 そこで赤血球たちは、インスリンを分泌する内分泌系のβ細胞のいるランゲルハンス島を訪れます。しかし、インスリンは糖尿病で血糖値が上がり、インスリンの必要性が増すと、β細胞の仕事が忙しくなりやがて疲弊してしまい、インスリンを生産しない状況になってしまったのです。一方でそんな状況になっていることに気づかない主人は、アルコールを飲みたばこを吸い続けます。体内で働く細胞たちの職場は、ますますブラック化するばかりなのです。
 

ウイルスとの攻防を描く

帯状疱疹」では、帯状疱疹ウイルスとの体内の攻防が描かれています。帯状疱疹は、体の中に潜むヘルヘルペスウイルスの一種である水痘・帯状疱疹ウイルスによって起きます。ピリピリ刺すような痛みと赤い斑点が体に帯状に現れます。このウイルスと闘うのがガン細胞などを始末するキラーT細胞です。キラーT細胞はヘルパーT細胞の命令により動きます。
 しかし、帯状疱疹ウイルスの攻撃を防ぐことはできません。帯状疱疹ウイルスの痛みは激しく、疱とが体を一周したら死ぬともいわれるほど危険なウイルスです。容赦ない攻撃に必死で白血球も反撃します。絶体絶命の危機に、突然にウイルスたちが攻撃をやめます。体外から薬物のアシクロビルが投与されたのです。この薬は水痘や帯状疱疹ウイルスに有効性を持つもので、ウイルス自体のDNAに入り込み、その増殖を防ぐ力があったのです。ヘルパーT細胞の働く様子は随所に描かれていますが、「第3巻」では尿道から細菌が逆流することで起こる急性腎盂腎炎でも細菌の侵入を防ぐべく、白血球たちに指令を出し続ける様子が描かれています。
 

Commentブログ筆者

 改めて自分の体内を省みて細胞たちに感謝
 普通に健康体で生活していると、身体の中で細胞がどのように働いているかに気を遣うことを忘れてしまいます。どこか調子が悪くなって初めて、自分の内臓が疲れていることに気づいたりするのです。「働く細胞BLACK」は、そんな生活を過ごしているブログ筆者には新鮮な漫画でした。
 
 医療業界やそこで働く人間たちの姿を描いた作品は多いですが、人間の体内の細胞や、病気をテーマにした漫画作品はそう多くはないと思います。監修者の清水葵さんの漫画「働く細胞」がベースとなっていますが、読者ターゲットを上げて描かれています。何よりも楽しみながら人体や体内の様子を勉強できるという点がいいですね。
 
 当初、タイトルの「BLACK」の意味が分からずに手塚治虫先生の名作「ブラックジャック」を連想したりしましたが、細胞たちが働く人間の体内の現場が、今でいう「ブラック」だという点に気づいた時はすぐに納得できました。
 
 常々、腸の健康こそが大事だと主張しているのは藤田紘一郎先生ですが、我々は脳の自我に翻弄されるままに暴飲暴食を続ける結果、必死に体内で細菌たちと攻防を続けている細胞たちにとって、日ごろの人間の生活や食生活は褒められるものではないのです。ここまで細部に至り体内での細胞の活動や、病気発生に至る経緯を知ると、少しは食生活も自嘲しなくてはいけない、体内の細胞たちに感謝しなければいけないと改めて思わされる作品です。