Book.マラソン日本記録保持者 大迫傑の思考法「走って、悩んで、見つけたこと」
Overview
2018年10月にアメリカで行われたシカゴマラソンで、2時間5分50秒でゴールした大迫傑選手はレースでは3位でしたが、その時点でマラソン男子日本新記録保持者となりました。以降、現在(19年9月23日)まで記録は破られていません。
9月15日に東京で開催された「マラソングランドチャンピオンシップ」(MGC)では、レース37キロ以降に中村匠吾選手、服部勇馬選手とデッドヒートを繰り返し、2位の服部選手と5秒差で3位入賞。20年東京オリンピック代表選手の内定決定は先送りとなりましたが、今後のレースが期待される白熱したレース内容でした。
現在も来年に東京で開催されるオリンピックのマラソン代表の3人目に一番近くにいるのは、大迫選手です。 その大迫選手がマラソンについて書いたのが、「走って、悩んで、見つけたこと」(文藝春秋)です。大迫選手は早稲田大学時代は箱根駅伝に4回出場し、11年と12年の2年間には区間賞を受賞。その後は箱根駅伝やMGCでも競った設楽悠太選手と同じように実業団に入り走り始めますが、翌年には渡米しナイキ・オレゴン・プロジェクトに所属しトレーニングを重ねるようになります。
今回のMGCでも見せた一見、無表情とも思える表情は駅伝選手時代と変わりませんが、白い帽子の下に隠れた丸坊主頭には、レースに向けた勝負への並々ならぬ覚悟を感じました。なぜ、大迫選手はマラソンランナーとして日本記録保持者へと登りつめ、今、オリンピック代表選手候補として注目されるまでになったのか、プロランナー・大迫選手のランナーとしての生きざまや考え方を知ることができます。(以下、一部を紹介。本書では写真も数多く使用しています)
「きつい」のはどこか
大迫選手にとって「マラソンを走るということ」とはどんなことでしょうか。
トラック競技はフィジカルが80%、それがマラソンは60%、メンタルが40%の比率になります。だからメンタルに関してのトレーニングはできるだけやっています。
練習で「きつい」と感じることがありますが、「きつい」という感覚は主観的なもので、「今きついのはどこ?」と問いかけると、身体全体が「きつい」わけではないことに気づきます。大切なのは常にポジティブで平常心であること。初マラソンのボストンマラソンでは、そういうレースができて、結果を残せたのです。
それでもレースによっては辛い、やめたいと思ってしまうこともあります。そういうときは「練習でも勝ってきたし、これだけ走れたのだから残りも大丈夫」などとポジティブな方へと意識を持っていくようにしています。(本書から抜粋し構成しています)
辛い時期を耐えれるか
なぜ、大迫選手はここまで強いランナーに成長したのでしょうか。
走りがいい選手はいくらでもいます。最低限の走るセンスは必要かも知れませんが、それ以上に大事なのは生き残る力だと思います。どういう選手が生き残れる強さを持っているのか。それは一概には言えませんが、辛い時期をいかに我慢できるかということは すごく大事です。
どんなに環境が変わっても、順応するまでには単純に耐えるしかありません。一番辛いところを2か月で乗り越える人もいれば、1年かかる人もいます。そこまで我慢できるか、できないかの違いです。環境が変われば孤独感は強まるし、この先どうやっていけばいいのかという不安もあります。だけどやることさえやって耐えていれば、いずれは絶対に慣れます。高校時代はすごくきつかったですけど、強くなるには耐えて、ひたすら練習するしかないと思っていました。(本書から抜粋し構成しています)
Commentブログ筆者
MGCで見た大迫選手の珍しい姿
今回のMGCに出場する寸前の大迫選手を見たとき、髪の毛を丸坊主にした修行僧のような風貌に並々ならぬ、レースに賭ける覚悟を感じました。その7か月前の東京マラソンは途中棄権となったがゆえに、このレースへの意気込みは他選手以上にあったのではないでしょうか。
もちろん、MGCでは2位に入賞すれば東京オリンピック出場に内定が決まります。そのような意味では出場選手30人の全員が同じような気持ちで出場していたのです。しかし、勝負は明暗を分けます。37キロ以降に大迫選手は中村匠吾選手や服部勇馬選手とデッドヒートを繰り返し、40キロ以降、ゴールが近づくにつれ3位についた大迫選手は何度か後方を振り返りました。4位の選手がどこにいるかが気になったのでしょう。
大迫選手の珍しい姿でした。それ程に「きつい」レースだったのです。本書でも触れていますが常に「足が壊れたら」次にどうするかを考えなければいけないということも、いかに練習がハードかレースが全てを賭けたものであるかを知ることができるのです。
クールな表情の影にある何か
テレビの放送中に笑顔を見せマラソンのイメージを大きく変えた高橋尚子選手とは違って、大迫選手はあまり顔を見せる選手ではありません。しかし、大迫選手にはこれまでの男子マラソン選手には、あまり感じることのなかったかスターとしての華を感じるのです。それは二枚目の日本記録保持者というだけではない何か・・・・。駅伝時代選手にも感じたクールさの向こうにある「何か」です。
本書を読み進めるうちに、その「何か」に触れることができるのです。
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