musashiman’s book review

一般の話題本や漫画を紹介しています。

Book.アレルギー疾患や免疫機能が低下する遺伝子組み換え食品と農薬基準緩和で「売り渡される食の安全」

f:id:musashimankun:20200411180744j:plain

「売り渡される食の安全」(山田正彦著、KADOKAWA

Over view
 いつも私たちは当然のようにおいしいコシヒカリやひとめぼれなどの米で作るご飯を食べています。しかし、このおいしい米を食べられなくなる日が来るかも知れないのです。日本人にとって生きる糧である米を「安心、安全に、しかも安価」で提供することは、「種子法」という法律で定められていました。この「種子法」が国会で審議らしい審議もされず、新聞やテレビで報道されないまま2018年4月に廃止されてしまったのです。
「売り渡される食の安全」(山田正彦著、KADOKAWA)では、元農林水産大臣で弁護士である著者の山田正彦さんが、「種子法」廃止にある政府、巨大企業の思惑を暴き、かつ現場の状況を調べながら、今後の一般市民が食するさまざまな食品や健康に警鐘を鳴らしています。
 

では、「種子法」とはどのような法律なのでしょうか。最大の特徴は栽培用の種子を採取するためにまく「原種」と、大元である「原原種」を栽培、生産し、一般の稲作農家へ供給していくことを各都道府県に義務付けていることです。
 現在、日本でコシヒカリは44府県で栽培されていますが、「原原種」の栽培からこの米が一般家庭に届くまでには、農業従事者の並々ならぬ努力がされていることを知る人がどれ位いるでしょうか。例えば、「原原種」の生産開始から一般農家に稲の種子が届くまでには4年がかかります。また、コシヒカリ新潟県と千葉県で奨励品種として採用されるまでには10年を費やしています。これら栽培なども予算も国が担っていて、この根拠も「種子法」によって制定されてきました。

 
「種子法」が廃止されれば、国は種子を育成しなくてもいいというとになります。では誰が種子を育成するのか。種子を育成するには莫大な時間と資金がかかるために、企業でなければ参入が難しくなります。問題はここからです。現在、遺伝子組み換え産業で有名なアメリカのモンサント社など多国籍企業が、すでに遺伝子組み換えのコシヒカリの種子やゲノム編集された多収穫の米を用意していて、農水省消費者庁が「遺伝子組み換えの安全性は確保されている」と力説しているのです。同著では遺伝子組み換えの種で育成されたコシヒカリが市場に出ていくのは時間の問題とされている、日本の農業現状と問題点を検証しています。
 
 

米国 日本種市場に圧力

17年度の日本の食料自給率は38%、カナダは264%、オーストラリア223%、アメリカ130%で、日本は先進国で極端に低い状況となっています。品種別では小麦14%、大豆28%、畜産物16%で平均値を下回っています。この数字を見てもわかるようにいかに日本の自給率が低く、農産物を海外からの輸入品でカバーされているかが分かります。今後は国内の生産状況も日本独自ではなくなる可能性が高くなるということになります。
 
 19年4月時点で海外に本社を置く多国籍企業は、日本の米の種市場に進出していません。ただ、アメリカは通商代表部を通じて、日本の主要農産物の種子が民間に開放されていないことを問題視して外交圧力をかけてきているのです。その企業の代表として先頭に立つのがモンサント社です。同社はアメリカのミズーリー州に本社を置いていた多国籍企業で、遺伝子組み換え作物で世界的トップシェアを誇示していました。

モンサント製が日本に

日本では1957年に日本モンサントを設立。現在も活動を継続しています。住友化学は14年にモンサントと業務提携することで合意。コシヒカリつくばSD1号と同2号の種子については、住友化学製の農薬および化学肥料をセット販売しています。さらに子会社の住友アグリソリューションズを通じて、農業協同組合農業生産法人につくばSDの種子を販売。
 収穫された米をすべて引き取り、コンビニエンス大手のセブン‐イレブンに販売する体制を確立しています。
 
 モンサント社の生産する遺伝子組み換え食品や除草剤などの商品には、人体への影響があり免疫機能の低下や発がん発生の可能性があることは、これまで何度も指摘されています。18年8月にはカリフォルニア在住の末期の悪性リンパ種と診断されていた男性が、発がんの原因がモンサント社の除草剤を使用していたことにあると訴えた裁判で、サンフランシスコの陪審員は同社に損害賠償金を支払うよう命じました。本書ではアメリカや中国、ロシアの劇的な変化、そしてなぜ、日本は世界の潮流に逆流するのかを検証しています。
 

Commentブログ筆者

なぜ、日本は依然としてノーといえないのか
 モンサント社が発がん性のある除草剤などの製品や、大豆、小麦や種子などの遺伝子組み換え食品を製造し販売していることが問題になったのは20年ほど前だったと記憶しています。にもかかわらず以降、モンサント社の事業は世界で拡大し業績も急成長しました。この状況にブログ筆者は唖然とせざるを得ませんでした。
 
 しかし、世界の潮流は大きく変化していました。現在、中国もロシアも遺伝子組み換え食品を制限し有機栽培による食品を注視しているのです。モンサント社が本社を置くアメリカでさえ状況は一変、同社製を使用し癌が発生するなどの問題を訴える裁判で同社が敗訴するケースが増えています。しかし「売り渡される食の安全」で著者が報告しているように、日本だけが世界の潮流に逆流しているのです。
 
いつのまにか健康食が発がん食品に
 それは原子力発電の問題とイコールなのかもしれません。原発システムが、東日本大震災を契機に日本国内でここまで負の資産を抱えきれないという事態を、誰もが理解し把握できるようになった現在でさえも、原発推進会社の経営陣に対して全く異論を唱えない権力機関が存在する国です。この国は一体、どんな国なのかと疑問を感じざるを得ない状況に一致するのです。
 
 このままでは我々は毎日、口にするご飯やおにぎりが発がん性のある食品にいつのまにか変化していても、健康食だといわれている大豆や豆腐が、発がん性のある種から製造されていることが表示されないことから、発がん商品だと知らずに購入していても、病気の原因が国家政策にあることや、製造元を訴えることができなくなるのです。
 大切な健康や食生活の安全がなぜ失われるのかを考えるためにも貴重な一冊です。

関連本