musashiman’s book review

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Book.大人もAIに仕事を奪われない。読解力アップの実践法「AIに負けない子どもを育てる」

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新井紀子著、東洋経済新報社

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 現在はさまざまな分野でAI(人口知能)を活用したコンピューターやロボットが活用され、今後は我々の社会で「AIに仕事を奪われる」分野や人材が出ることが懸念されています。人間はAIに負けてしまうのか、負けないように子供の頃から訓練する方法を紹介したのが本著「AIに負けない子どもを育てる」(新井紀子著、東洋経済新報社)です。
 著者の新井紀子先生は、AIは将来的には人間の十分なコミュニケーション能力を要する分野、実際に肉体を活用しなければいけない分野、そして「読解力」を必要とする分野では十分な力を発揮できないと予測しています。つまりAIに勝つためには「読解力」を強化する必要があるというのです。
 
 しかし、読解力のない人たちが増えているのが現在でもあります。この状況を書いたのが前著「AI.vs教科書が読めない子どもたち」(同)で、山本七平賞日本エッセイスト・クラブ賞に続き、2019年ビジネス書大賞などを受賞しました。新井先生は一ツ橋大学法学部およびイリノイ大学数学科を卒業後(専門は数理論理学)、11年からは人口知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」ディレクター、16年から読解力を診断する「RTSリーディングスキルテスト)」の研究開発を主導しています。

 
 AIを信じなければ、このテクノロジーを前提にして再編される2030年代を生き残ることはできない。しかし、AI万能という情報を鵜呑みにすれば、5000円の羽根布団を50万円で買うことにもなりかねない。ですからAIを過小評価せずに、過大評価もしないことが大切だと説いています。特にモノ作りで生きる日本国民には、GAFAの宣伝に踊らされることなく、正しいAIリテラシーを身につけてほしいと主張しています。
 そのための対策として、AIの性能を測るための問題集が必要だと感じた新井先生が実施しているのが、日本独特のRST(リーディングスキルテスト)です。本書では実際のRSTも紹介しながら、読者が実際に体験できるようになっています。
 AI時代を生き抜くために重要になる「読解力」を身につけられる方法や、実際の授業の状況やテスト結果を分析し出た傾向をもとに、学生たちに必要な授業が提案されています。

 

実践スキルテスト添付

 RSTは「係受け解析」「照応解決」「同義文判定」「推論」「イメージ固定」「具体例固定」の項目で構成されています。例えば、「係受け解析」では、【水にしずむ鉄でできたボルトとナットも、鉄より密度の大きい水銀は水に浮かぶ。この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つ選びなさい】を例題に、問題として【ボルトは(  )に浮かぶ】の( )内候補に①水銀②鉄③水④氷を挙げています。
 このテストを受けたタイプとしては、11万人の受験者データを分析し、28項目中で「係受け解析」「照応解決」「同義文判定」で6点以上、「推論」「イメージ固定」「具体例固定」で3点以下の層が最も多いという結果がでました。
 
 タイプとしては、活字を読むことは嫌いではなく、知的好奇心はあるのに理数系やコンピューターに苦手意識がある。ネット情報に頼りがちであることから「情報過多で論理力不足」だと分析しています。また、読解力を培う授業では、小学校4年生向けに、単元名「正しく伝えよう」、目標は「無駄なく正確に文章で伝える」力を培う国語の授業を提案しています。同授業では、オセロの玉を並べた状態と、その説明文章を正確に結びつける「イメージ固定」の力をつけることを第一の目標としています。本書では具体的な授業内容が紹介されています。巻末には小学校高学年までに子供が取得すべきことを箇条書きにまとめています。
 

Commentブログ筆者

スキルアップテストで大人も読解力がアップする
 AI時代をどう生きていくか。今後はAI導入で失われる職業が増えることが予測されています。わかりやすくいえば、コンピューターの自動化で人が必要なくなるということです。「AIに負けない子どもを育てる」は、そのような社会で生き抜くためには、AIが進出できない分野で仕事をするか、AIに負けない力をつけるためのトレーニング方法を提案しています。
 ではAIの躍進で社会がどう変化するのか。仕事ではどんな分野がAIを導入したコンピューターやロボットなどに変化してしまうのでしょうか。例えば最近では、我々の生活に密着した分野では小売店のレジ係や、飲食店のカウンター接客係などが挙げられます。実際に小売店のレジ係では自動支払い機器を導入した店舗が増えていたり、無人店舗が出店されています。電話代行サービスなども、コンピューターが受け応えする企業が増えています。原子炉など人間が入ることのできない危険地帯でロボットが活躍していることはご存じの方も多いと思いますが、廃棄関連ではごみ処理などもロボット化学によるオートメーション化が増々、進むと予測されています。
 
 このような状況で生きていくための提案事項として新井紀子先生は、AIが苦手とする「読解力」にスポットをあて、子供から大人まで強化する方法をRST(リーディングスキルテスト)を基本に紹介し提案しています。
 本書でも実際にテストもいくつか出題されていますので、自分がどんなレベルにあるのかをテストしてみることもできます。大人でも読解力が上がる例として、実際にテスト受講者が能力アップにつながった事例も書かれていますが、本書を通して今、一度、自分の脳力をチェックしてみてはいかがでしょうか。
 前著の「AI.vs教科書が読めない子どもたち」は多くの賞を受賞するなど話題にもなりヒットしました。これらの印税を教育機関の充実や災害に備えたツールに活用することも明記しています。

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