musashiman’s book review

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Book.「宇宙開発最前線の現場で働く実在の人物の姿を紹介『宇宙兄弟 リアル』」

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宇宙兄弟 リアル」
(取材・文 岡田茂講談社

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 漫画「宇宙兄弟」は漫画家の小山宙哉さんの作品で2007年から「モーニング」(講談社)で連載が開始。現在、コミックスは36巻までが発売されています。
 漫画では主人公の南波六太(なんばむった)と弟の日々人(ひびと)の二人が宇宙飛行士として活躍する姿を中心に、JAXA宇宙航空研究開発機構)やNASAアメリカ航空宇宙局)、ロスコスモス(ロシアの宇宙開発企業)で宇宙開発事業にかかわる人々との交流を交えながら、南波兄弟二人が日々、宇宙事業に対してさまざまな困難に遭遇し、葛藤しながらも成長していく姿が描かれています。

このほど発売された書籍「宇宙兄弟 リアル」(取材・文 岡田茂講談社)では、漫画「宇宙兄弟」で描かれた舞台となる宇宙開発最前線の現場で働く人たちについて取材し、具体的な仕事の内容、仕事観、生き方や仕事に関するエピソードも交えながらまとめています。
 金井宣茂さんや油井亀美也さんなどの宇宙飛行士の現在の仕事や、フライトディレクター、専属ドクター、宇宙飛行士ユニット長など、普段ではテレビやマスコミなどに出てこない人々の仕事、インタビューも紹介されていて、苦労話などもまとめられています。

 

日本の宇宙開発事業団の仕事に関わる人々の肉声が伝わってきますが、インタビューを受けている9人は、「仕事」をする上で大切なことを述べており、宇宙開発事業とは違った分野で働く人にとっても参考になる内容といえます。
 同書をまとめた岡田茂さんは映像ディレクター、ライターで、「宇宙がきみを待っている」(若田光一との共著、汐文社)や「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)などの作品があります。

 

訓練ではマイナス20度で生活

本書に登場する9人の中で2名を紹介します。
防衛医科大学校病院で外科医師・潜水医官として勤務していた金井宣茂さんは、2011年に11人目の日本人宇宙飛行士になりました。向井千秋さんや古川聡さんの医師から転身した3人目の宇宙飛行士です。2017年には168日間にわたるISS国際宇宙ステーション)の長期滞在ミッションに参加しました。
 
 またNASAの宇宙飛行士候補者訓練コースでは、一般サバイバル技術、飛行機操縦、スキューバ、語学、体力訓練があり、ISS国際宇宙ステーション)やソユーズなどの宇宙システム、宇宙実験に必要なサイエンス関連の基礎知識(生命科学、地球観測など)、航空宇宙工学に関する知識が求められたといいます。
 
 飛行操縦訓練では、飛行機のわずかな変化も見逃せず、緊急事態のケースで飛行機を操る訓練もします。緊急事態という点では、地球への帰還時にソユーズが不時着したケースに備えて、救援隊が到着するまでの3日間、宇宙船内に装備されたサバイバル道具を使って、マイナス20度の中で雪原で生き延びる訓練にも耐えました。
 

ほかに6日間、洞窟の中で過ごして探査したり、水深20メートルの海底の研究施設で10日間ほど作業する訓練もあります。宇宙業界はたくさんの業務を、夢と元気と根性で乗り越える、スポ根の世界だといいます。意外な点では訓練が辛い時は鼻歌を歌ったりしたという、エピソードも書かれているところが面白いです。

宇宙飛行士に大切なのは心

日本人初の飛行士に選ばれた毛利衛さん、向井千秋さん、土井隆雄さんの晴れの舞台の裏で、3人の訓練や実験計画をったのが、宇宙飛行士ユニット長の上垣内茂樹さんです。これまでに数多くの宇宙飛行士と仕事をともにし、さまざまな形で宇宙飛行士を支援してきました。その上垣さんが宇宙飛行士に求められるのは、技術面ではなく、仲間との協調性だといいます。
 
 宇宙飛行士が注目されるのは心・技・体がそろっているかです。知識や技術や体は、後で訓練でも磨いていけます。では、宇宙飛行士を選ぶ時に何を重要視するかですが。それは「心」だといいます。例えば、スタッフ同士の協調性では、どんな局面においても仲間と仲良く穏やかに、落ち着いた気持ちでミッションを遂行できる「心」を持っているかが重要になってくるのです。
 
 ある宇宙飛行士が精神的に追い詰められて、仲間の宇宙飛行士と喧嘩して口をきかなくなりました。地上管制官のいうことも聞かなくなったのです。結局、その人は宇宙ステーション全体に危機が及ぶということで帰還させられました。まず、どんな状況になってもチームワークを保っていける「心」があるかが重視されるのです。

インタビューでは宇宙飛行士になるための試験作りの裏話など、普段では聞けないエピソードも数多く盛り込まれています。
 

Comment ブログ筆者

何事にも負けずに耐えられる根性
 宇宙飛行士と聞くと、まず頭に浮かぶのが並大抵の人では就くことのない職業だということです。

実際に宇宙飛行士の資格を得る人にはパイロットや医者など知力、体力ともに秀でた人が多いですね。ただ宇宙開発に関わる人は全てが宇宙飛行士ではありません。実際に日本人の宇宙飛行士の誕生に尽力してきた上垣内茂樹さんは、宇宙を飛んだ経験はありません。
 
 このように本書では宇宙飛行士以外の人で宇宙開発に関わる人たちのインタビューが多く紹介されています。その中の一人である宇宙飛行士健康グループ主任医長(専属ドクター)の樋口勝嗣さんは、飛行士の試験に合格しなかった人ですが、その後、JAXAに入社することができました。専任フライトサージャンになると、宇宙飛行士の地球帰還に立ち会うため、24時間以上の勤務が続く場合もあるそうです。

仕事では樋口さんは何事にも負けずに耐えられる根気が必要だと話していますが、これは宇宙飛行士の金井宣茂さんが話していた内容と似ています。
 
 金井さんは、宇宙業界は「スポ根の世界と同じ」とも言っていますが、アスリートが最後に勝つか、負けるかはメンタル、精神面が決め手になるといわれます。このことは、宇宙飛行士に大切なのは「心」だという上垣内さんの話も共通しています。
 何事にも人間は究極的には「心」が重要になることが分かります。
 

また、本書では女性の宇宙飛行士マネージャーの中山美佳さんも登場します。9人の中で唯一、女性ですが、宇宙飛行士と身近に接する日常の仕事中の話が紹介されていて興味深く読むことができます。全員が仕事に対して何が重要になるかを述べていて、しかも、インタビュー形式なので、読者にとって分かりやすく読むことができます。

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