musashiman’s book review

一般の話題本や漫画を紹介しています。

Book.消費者の本音を知りヒットを生み出す「なぜ『つい買ってしまう』のか?~人を動かす隠れた心理の見つけ方」

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「なぜ『つい買ってしまう』のか~人を動かす隠れた心理の見つけ方」
松本健太郎著、光文社)

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 ヒット商品やよりよいサービスは多くの企業が存続していく上で重要なものになります。職種や職業を問わず、また個人が仕事をしていく上でも大切ですが、「なぜ『つい買ってしまう』のか?~人を動かす隠れた心理の見つけ方」(松本健太郎著,光文社)は、少子化を背景に経済が減速する中で、「物が売れない」「サービスを提供しても使ってもらえない」人のために、「インサイトに基づく商品・サービス開発」という新しい考え方を提示し、そのための手法を紹介しています。同書では「インサイト」を「人を動かす隠れた心理」と定義しています。
 
 

では、どうすれば、インサイトにもとづいたヒット商品を出せるのでしょうか。そのヒントとしてアメリカの鉄道会社は「人や物を運ぶこと」と捉えず、「車両を動かすこと」と定義したために自動車や航空業界との競争に敗れ、映画業界は「エンターテインメント産業」と考えるべきだったのに、「映画を制作する産業」と近視眼的に定義したために、テレビとの競争に敗れたなど、1960年にセオドア・レビット元ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授が書いた「マーケティング近視眼」という論文を紹介しています。
 
 著者の松本健太郎さんは、エンジニア、データサイエンスとして活躍した後、インサイトリサーチやアイデア開発の手法を提示するデコムに入社し現在はR&D部門を統括し、オポチュニティ・インサイトの開発・検証など新しい手法の構築に携わっています。著書に「データサイエンス超入門」(毎日新聞出版)、「誤解だらけの人口知能」(光文社)などがあります。

キーは 機能価値と情緒価値

例えばビ食品メーカーで働くAさんがビスケットの売り上げを伸ばすよう上司から指示されたとします。ビスケットは食べなくても困ることはありませんが、2019年の市場動向をみると微増で、チョコレートはビスケットよりも市場規模は伸びています。ビスケットよりもチョコレートが伸びているのは何らかの理由がある筈です。
 
 そこでキーになるのがインサイトを見つけるヒントになる価値観です。価値には単なる「事実、特徴」、物理面、機能面の「機能価値」、感覚や感情につながる「情緒価値」があります。価値という点でビスケットは「サクサクしていて確かな食感がなく、食べても自分のエネルギーが回復したように感じない」という機能価値に対する不満があったとします。
 
 これがインサイトです(インサイトは8~10件は見つけ出す必要があります)。そこで「確かな食感が口の中でしばらく続き、噛むたびに回復していく」という価値提案を行い、具体的な物に落とし込んでいくということになります。重要なのはビスケットの市場や競合商品を見るのではなく、消費者、つまり人間を見ることが重要だと指摘しています。では自社ブランドではなく、競合ブランドではなく市場ではない、人間を見るにはどうしたらいいのでしょうか。
 
 人間を見るためにデコムでは道標として「美容、ファッション」「健康、ヘルスケア、医療」「買い物、買い方」「仕事、働き方」「IT、メディア、コンテンツ」「恋愛、友人関係」など「生活14カテゴリ」を開発、おおよそ人間がこのカテゴリにお金や時間を費やしている範囲をまとめています。
 
 また、インサイトを発見するための前段階となる新規事象については、「執着心がなければ吸収できる シェイクスピアでゆるっと英語学習」や「誰の目も気にせずスキップできる  平日昼間はリラックスできる贅沢時間」などウエブ上で行うマーケティングリサーチをもとに、「事象を表すタイトル+イラスト+事象内容+個人のデモフラティック(解説)」として提供しています。
 
 

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なぜか、つい買ってしまう魅力

Commentブログ筆者
 日本の経済力が減速の一途を辿っているのは、それまで日本の経済力を支えてきた基幹産業といわれてきた製造業が国際競争に負け続けていることや少子化が原因ですが、その中でもスマホスマホ周辺機器は回復基調、家庭用ゲーム関連などは好調にしています。
 
 これはスマホの新規性と、「ポケモンゲーム」のようにこれまでの家庭用ゲームにGPS機能を付加させ、家の中でなくスポットのある公園やショッピングセンターなど外でゲームを楽しむという、ある意味でそれまで家に籠ってプレイするだけだった、ユーザーのインサイトを探し当てた結果に拡大している可能性があります。
 「ポケモンゲーム」については、仲間同士でギフトをプレゼントしあったり、自分の仲間がどこでゲームをして、何をゲットしたのかも知ることができるなどコミュニケーション効果もあります。これも「こんなゲームがほしかった」というユーザーインサイトに応えた要素の一つといえるでしょう。
 

高くても購入する心理


 また、「なぜ『つい買ってしまう』のか?」の中でも取り上げていますが、悪玉菌と闘う乳酸菌(PA3)を含むという機能価値を全面に打ち出した「明治プロビオヨーグルトPA-3」(明治)も好調に推移しています。
 同社はチョコレートについては早期から機能価値の訴求を強化しています。例えばブログ筆者も食べ続けている「チョコレート効果CACAO」シリーズでは「同72%」「同86%」「同95%」をラインナップ、最近は「アーモンドチョコレート」の「アソート」でアーモンドで食物繊維、オレイン酸、カカオでポリフェノール、食物繊維と大きく明記し「カラダにうれしい組み合わせ」としています。価格も他社品と比較し200円以上高いですが、ブログ筆者は「つい、買ってしまう」のです。
 
 他の商品とは違い通信販売でなく店頭販売が多い食品では、まずユーザーに目立つように店頭に並べられるかが勝負になりますが、やはり、機能価値というのは訴求ポイントが高いですね。
 納豆などは数多い商品が店頭に並びますが、1個の単価が他社品と20円ほど高くても、「国産」「国産大豆100%使用」とネーミングに大きく表記してある商品を購入してしまいます。これも健康面を考慮し「つい、買ってしまう」商品なのです。

関連本

Book.(漫画)「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」安彦良和 最後の長編「乾と巽 ザバイカル戦記②」  

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「乾と巽~ザバイカル戦記」
安彦良和著、講談社

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 「機動戦士ガンダム」の生みの親の一人であり、「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」が爆発的なヒットとなった漫画家でアニメーターの安彦良和先生の最後の長編が「乾と巽(いぬい と たつみ)~ザバイカル戦記~」(講談社)です。このほど第2巻が発売されました。
 安彦先生の日本近代史シリーズ4部作の4作目にあたる同作品では、日本のシベリア出兵をテーマに、帝国陸軍第七師団の砲兵・乾(いぬい)軍曹と、浦潮日報の記者・巽(たつみ)を中心に、一兵卒と一記者の目から、ロシアの戦場を駆け抜けた男たちの生き様を描いています。

 

日本近代史シリーズには、明治時代中期から末期の日本や朝鮮、清を舞台に日清戦争辛亥革命期に生きた人々を描いた「王道の拘」(同)、明治時代後期の日本やアジアを舞台に日露戦争に翻弄された青年を描いた「天の血脈」(講談社)、昭和初期の満州国を舞台に日豪ハーフを主人公に「トロツキー計画」をテーマにした「虹色のトロツキー」(潮出版)があります

「乾と巽~ザバイカル戦記~」は「虹色のトロツキー」の中の登場人物たちの、父親世代にあたる年代の男たちの物語となっています。
 「乾と巽(いぬい と たつみ)~ザバイカル戦記~」の「第1巻」では1918年(大正7年)の日本軍のシベリア派遣部隊がウラジオストックに入った「シベリア出兵」の第一日からスタート。日本軍はアメリカ・イギリス・フランス軍とともに北上し、オーストリア軍と戦闘。この時、偶然に乾軍曹は、巽 浦潮日報記者を助けます。「シベリア出兵」史上最大で唯一とされる正面決戦「クラエフスキーの会戦」で日本軍が圧勝する様子などが描かています。

 

ロシア革命にどう向かったのか

当時、七師団に属していた乾軍曹は、満州里に着任しますが、特別守備隊の顧問らに囲まれます。しかし、乾軍曹は大勢の敵を相手にも怯まずに敵を全員とも倒してしまいます。「第2巻」では乾の幼い頃のエピソードも描かれます。
 北海道北見国の紋別郡の村に生まれた乾は、酒好きの父親に夜中に酒を買ってこいと怒鳴られ、雪深い山道を遠い酒屋まで出かけます。そこで出会った人物に柔術を習うように勧められるのです。
 
 そんな思い出に長く浸る間もなく、乾はウラジオストクへの行程の戦闘では、夜中に列車から飛び降り戦闘を続け、相手をピストルで撃ち、仲間は殺した敵の耳をそぎ、目玉をくりぬくのです。
 一方、巽 浦潮日報記者は提督を取材するために、ゾロ・トーイ劇場に出かけます。そこで偶然にも劇場に現れた乾軍曹と再会するのです。日本近代史シリーズの最終作では20世紀最大の事件ともいわれる「ロシア革命」に日本人がどう向き合ったのかが描かれますが、その序章がスタートしました。
 

国際政治の大事件背景に描く

Comment(ブログ筆者)

機動戦士ガンダム」シリーズ新作は2020年7月26日から映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(原作・富野由悠季矢立肇村瀬修功監督)が公開。今年もアニメのガンダムシリーズローカル局のどこかで再放送され、「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」に至ってはNHKが春から放送をスタートするなど、絶大な人気を得ています。
 
 40周年記念プロジェクトも10月22日からは始まりファンを魅了し続けています。日本はまさにウルトラマン同様に、不滅の金字塔を打ち立てたと言っても過言ではありません。世界に誇れるアニメや漫画が日本には存在し、原作者が存在することはまさに貴重な宝と言えるでしょう。
 
 その作者がどんな人物なのかは、作品を時系列に読み進めていくだけでも、その思考の奥深さに圧倒されてしまいます。
 日本近代史シリーズなど数多くの作品が証明していますが、ガンダム生みの親の一人である安彦先生の創作力は、ことガンダム以外にも十分に発揮され続けているのです。「機動戦士ガンダム」は宇宙を舞台に、地球から移民してきた人々の中の戦争を描いていますが、「機動戦士ガンダム THE ORIJIN」においても、戦争をテーマに、その中での家族愛や友情についても描かれています。
 
 日本を代表するアニメには数多くの名作がありますが、「ウルトラマン」「エバンゲリオン」「機動戦士ガンダム」「宇宙戦艦ヤマト」の根底には原作者の実際の戦争体験など、戦争が作者自身に影響している作品があります。では、新作「乾と巽~ザバイカル戦記~(2)」はどんな作品になるのでしょうか。
 
 「安彦良和戦争と平和」(杉田俊介著 中央公論新社)の中で、安彦先生は以下に述べています(ブログ筆者が抜粋し作成しています)。
 「ほとんどの人はシベリア出兵は失敗だった、名分のない軍事行動だったと振り返っています(中略)。日本はシベリア出兵では最後まで現地に残って醜態をさらして、世界の笑いものになった、といわれるけど、残らざるを得なかったわけですよ。(中略)
 日本はあれほどの国際政治の第一線に立たされた事件は、後にも先にもなかったのです。そういう事件の渦中に、無名の一兵士が飛び込んでいく。それが『乾と巽』の物語になるんですね」

関連本

Book.「人とマシン、リアルとネットが融合し、やりたいことを実現する『サイーボーグ時代』」

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「サイボーグ時代」
(吉藤オリィ著 きずな出版)

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 「サイボーグ時代~リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略~」(吉藤オリィ著、きずな出版)は、「OriHime(オリヒメ)」という片手で持てる遠隔操作型ロボットを開発した吉藤オリィ(健太朗)さんが、「OriHime」についてと、人生を生きていく上で何が重要になるか「人生戦略」を書いています。
 株式会社オリィ研究所代表の吉藤さんが開発したOriHimeは、スマートフォンやパソコンで操作できます。例えば、病院や自宅から出られない人がこのロボットを操作することで、マイクやスピーカーで、ほかの人と会話することもできたり、通学や出社が可能になるのです。
 
 吉藤さんの親友、故・番田雄太さんは4歳の時に交通事故で脊髄を損傷し、その後は20年間、岩手県盛岡市内の病院で寝たきりの生活を送っていました。しかし、吉藤さんの活動を知った番田さんが吉藤さんにメールを送ったことがきっかけで二人は出会いました。
 吉藤さんは番田さんに自分の会社に入社することをすすめ、番田さんは広報担当として仕事を始めたのです。吉藤さんのスケジュール管理からメディア対応までスケジュール管理をこなし、一緒に全国を講演しました。入社して3年後に番田さんは他界しましたが、3年間、とても濃密で自分の希望することができたのです。

 
 

また、榊(さかき)浩行さんは全身の筋肉の自由がきかなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を患い、眼球以外はほとんど動かせません。しかし、藤吉さんが作った「OriHime eye」というツールを使ってパソコンで絵を描いています。それまではテレビを見て毎日を過ごしていましたが、SNSで自分の描いた絵を発表するようになりました。
 現在、藤吉さんは大型の「OriHime-D」を開発、寝たきりの人と散歩に出かけたり、コーヒーを運んだりするロボットを開発し活動しています。大型の「OriHime-D」は、寝たきりの人が自分で介護できるようにするのが目標だといいます。

人間の孤独を解消する

吉藤オリィさんの「オリィ」もロボットの「OriHime(オリヒメ、以下OriHime)」も、藤吉さんの趣味である折紙作りから由来しています。今も人に会った時などはポケットにしまい込んである紙で折り紙のバラを作り渡したりしているそうです。

吉藤さんは幼い頃について引きこもりになり、当時、強烈な孤独感を感じました。その孤独感の解消をヒントに開発されたのがOriHimeです。
「人間の孤独を解消することをミッション」としている藤吉さんは、このロボットを開発し、株式会社オリィ研究所を設立、現在は12人の社員とともに、代表として会社を運営しています。2016年には功績が認められ米国の経済誌「Forbes」の「アジアを代表する青年30名」にも選ばれました。

なぜ、このようなロボットを開発し続けるのか。吉藤さんは以下に述べています。「人は高齢化や病気、ケガなどで、いままで『できた』ことができなくなっていくとき、絶望に近い悲しみや将来への不安を覚える。しかし、『できない』と思っていたことが『できる』に変わった瞬間、将来に対して希望を持てることができる」

誰もが発明家になりうる

Comment(ブログ筆者)

スマホやケータイを見ている人は多いですが、どこでもスマホに釘付けになっているのは、楽しみだけでなく問題や疑問に瞬時に応えてくれるからです。例えばスマホですぐに自分の知りたい情報を検索できるようになったのはAI(人工知能、以下AI)の功績によります。自動車もAIにより自動運転化されるなど、私たちの生活環境は大きく変化しつつあります。

AIではAIロボットをテーマにした映画も多く「A.I.」「アンドリューNDR114」「エクスマキナ」などが公開されてきました。これらの映画では、ますます人間に近くなってきたロボットと人間がいかに、よりよい関係を維持できるかがテーマになっています。

現在もロボットの開発は、より進化し続けています。最近になって身近な生活ではソニーの「aibo」が売れたり、東日本大震災で大きな被害を出した福島原発の処理作業でも産業用ロボットが注目されるなど、一般の人の目に触れる機会も増えています。

吉藤さんは自分の生き方について以下に述べています。

自分の能力や意識を時代に合わせアップデートさせながら、得意なことに専念しやりたいことを実現する。他者の経験や知識を取り入れて自分の能力の一部と化し、できることを増やし「サイボーグ的」に生きることが重要だと思います。

いまは情報があふれ、専門家も見つかりやすいこともメリットで、モノづくりに困った時は、SNSを通じて造形に詳しい人を探してアドバイスを受けることもできることから、自分に必要なものを自分で開発していける、誰もが発明家になりうる時代だと述べています。(今回に紹介する書籍は新刊ではありません。ご了承ください)

関連本

Book.「痛くて辛くて当たり前、病気があり健康がある 樹木希林『この世を生き切る醍醐味』」

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「この世を生き切る醍醐味」
樹木希林著、朝日新聞出版)

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 女優の樹木希林さんが他界して1年と1か月が経過しました。樹木さんはテレビドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」や、映画「わが母の記」「東京タワー~オカンとボク」「神宮希林 わたしの神様」「あん」「万引き家族」「日々是好日」など数多くのドラマや映画に出演。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞のほか、2008年に紫綬褒章、14年には旭日小褒章を受章しました。
 一方で03年には網膜剥離で左目の視力を失い、2年後には乳がんにより右乳房を全的手術し、13年には全身ガンであることを公表。以降も精力的に女優業をこなしてきました。樹木さんの偉大さは映画作品はもちろんですが、現在も続く出版物をみても分かります。
 

 死後3か月が経過して発売された「一切なりゆき」(樹木希林著、文藝春秋)は150万部を超えるベストセラーとなり、今年に入ってからは「樹木希林120の遺言~死ぬときぐらいは好きにさせてよ」(宝島社)、「樹木希林 ある日の遺言 食べるのも日常 死ぬのも日常」(小学館)、「この世を生き切る醍醐味」(樹木希林著、朝日新聞出版)、「老いの重荷は神の賜物」(樹木希林著、集英社)などが発売されています。中でも「この世を生き切る醍醐味」は、希林さんが他界する半年前にインタビューされたものを収録。加えて娘・内田也哉子さんが語る母親についてのインタビューも併録されています。ドラマ、映画、病気、夫、家族について希林さんがストレートに語り尽くしています。
 

忘れなかった心の余裕

樹木希林さんがいかに優れた女優だったのかは、希林さんが出演して、これまで話題になったドラマやテレビCM、映画を通じて知る人は多いと思います。しかし、プレイベートはどんな女性で母親、妻だったかを知る人はそう多くはいません。
 「この世を生き切る醍醐味」には娘・内田也哉子さんが母親について実直に以下に語っています(ブログ筆者が本書から抜粋引用し、作成しています)。
 
 母はあれだけの病気を抱えていて、一度たりとも「つらい」とか「痛い」とか弱っているところを見せたことがなかったですね。死に対しても未知の体験なんだから、怖かった部分もあったと思います。
 でも、母は「怖い」「苦手だ」「嫌だ」ということにぶつかった時の対処の仕方をいっぱい訓練してきていました。だから、試練をどう自分が受け止めるか、あるいは乗りこなせるかっていう心構えがあったのではないしょうか。
 

病気になってからは、ちょっと修行僧のような雰囲気がありました。痛くて当たり前、つらくて当たり前、怖くて当たり前っていうところから、「さあ、自分はどう生きるか」っていうことを、頭の片隅に置きながら自分自身とずーっと問答しているような感じに見えました。それでいて、いつもユーモアがありました。より強く心の余裕を持って、おかしみを常に携えて、何事にも向き合っていきたいっていう、精神が決まっていたようでした。娘ながら「本当にこの人は、人間なのかな?」って思うこともありました。
 

本当に自立した大女優

Commentブログ筆者
 数年前にちょうど人生の進路転換を模索していた時期に、ブログ筆者は偶然に「あん」(監督・脚本 河瀬直美、原作・ドリアン助川)という映画を観ました。ブログを書き始めて以降は、なかなか映画を観る時間が少なくなってしまったのですが、当時は1週間に2本は観ていました。
 
 ジャンルは洋画のアクションから推理、SFなど多岐に渡っていますが、邦画も欠かさずに観ていました。「あん」はレンタルショップの棚に話題作としてピックアップされていたのです。この映画の主役が樹木希林さんでした。
 
 この頃、既に希林さんは全身ガンであるということを公表していました。できれば長生きしていただきたいと思っていましたが、その想いは「あん」という映画を観て、より強くなりました。それから数年が経過しても、希林さんは主役ではありませんが、多くの映画に出演されていましたので、まだまだ長生きをされると思っていた矢先に訃報を耳にしました。
 
 以降、映画はもちろんですが、テレビ番組の特集や書籍等でも希林さんについて知ることができました。それまで希林さんは素晴らしい女優さんだという印象はありましたが、実はここまで自立された方だとは思っていませんでした。
 
 女優で生計を立てること自体が優れた方ですが、一方では不動産業も営み、しかも女優業はマネージャーはつけずに全て自分でマネジメントし、事務所は自宅兼用という生活を送ってこられたのです。
 これまでの活動を見てきても、全てが常に自分の行うことを社会や家族などに還元できるかを考えてきた、希林さんの確固たるポリシーを伺い知ることができます。60歳で左目を失明し、乳がんで右乳房を摘出、そして全身ガンと14年も闘いながら、あくまでユーモアを忘れずに、常に周りを明るくしていた希林さんは、旅立って以降も、多くのメッセージを発信し続けてくれています。
 
 「この世を生き切る醍醐味」の後半で希林さんは次のように述べています(ブログ筆者が本書から抜粋、作成しています)。
 「自分の身体は自分のものだって思っていたんですけど、借り物だって思えるようになりました。親から生んでもらった身体をお借りしているんだと。そこにね、なんだか分からない私という性格が入っているんだと。これだけたくさんのガンをもっていると、いつかは死ぬではなく、いつでも死ぬという感覚なんですよ。お借りしていたものをお返しするという気持ちだから楽です」

関連本

Book.「水道水がそのまま飲める世界9カ国の中の一つ 日本の『水道が危ない』」

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「水道が危ない」
(菅沼栄一郎、菊池敏明著 朝日新聞出版)

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 過疎地での簡易水道の窮状、頻発する老朽水道菅漏水事故、水あまりで、もてあまされるダム、繰り返される赤字と急激に進む少子化で懸念される料金の値上げ・・・・・収入減少下になり迫られる大量の設備機器の更新投資など、現在、日本の水道事業を取り巻く環境は、世界のどの国も経験したことのない未曾有の危機を迎えています。
 
 世界中で「水道水をそのまま飲める」国は、ドイツ、デンマークノルウェーフィンランド南アフリカアイスランドオーストリアアイルランド、そして日本の9カ国だけですが、水質基準も日本はトップクラスにあります。その日本の水道事業が今、どのように危機的状況にあり、どう改善していけばよいのか。
 普段、私たちが空気同様に水は水道管から出るのが当然と使用している「水道の真実」について報告したのが「水道が危ない」(菅沼栄一郎、菊池明敏著・朝日新聞出版)です。

 


著者のひとりである菊池明敏さんは岩手県北上市で水道事業の改革を推進してきた人物です。菊池さんは下水課に着任した2006年当時、年に6億円余の赤字を出してきた北上市の下水道事業を改革。水源や浄水場を大幅に減らすために花巻市紫波町に統合を持ちかけ、14年に岩手中部水道企業団に統合。5浄水場を廃止し76憶円の投資を削減するなど尽力しました。

肩書は岩手中部水道企業団前局長で現在参与、総務省地方公営企業等経営アドバイザー。もう一人の著者である菅沼栄一郎さんは、朝日新聞地域報道部シニア記者で著書に「村が消えた―平成大合併とは何だったのか」等があります
 

「水道が危ない」には全国に先駆けて「水道事業の広域統合」を成し遂げている岩手中部水道企業団メンバーが、岩手県北上市の水道事業の改革経緯、今後の展開などについて話した座談会も収録しています。
 

設備費縮小で改善図る

世界の国々のどこも経験したことのない未曾有の危機的状況にある日本の水道環境・・・・現在、日本の水道事業はどんな状況なのでしょうか。戦後から近年までの第一世代の水道整備は、人口増加に伴う使用数量の増加に伴う増収に支えられ、膨大な水道インフラを整備してきた日本の水道事業ですが、このインフラが老朽化し、収入源になる筈の人口の急激な減少が危機的状況の根本にあります。
 
 加えて一人当たりの使用量の減少が定着し、中でも節水機器の機能向上で、風呂、洗濯機、食洗機、感知型節水栓、中水利用など節水機能が向上して、平成初期と比較し1~3割減少。特に著しいのがトイレ洗浄水で、初期タイプの洗浄水量は1回あたり約20リットルを使用していましたが、現在は4リットルを下回り、初期タイプと比較し7~8割減少しています。
 この状況に対処する手段はダウンサイジング(縮小)しかない。施設設備を削減しランニングコストを減少すれば利用効率が上がるのです。本書では具体的に水道事業、下水道事業、そして水道管路をどう改革しダウンサイジングすると、改善向上できるかがまとめられています。
 

漏水30%以上が49カ所

Comment ブログ筆者 
 今年の夏は台風による停電と断水で、電気や水など日常インフラの重要性を改めて認識している方は多いと思います。台風19号でも多くの方が停電、断水の被害にあいました。こと断水となると、夏の暑い中でお風呂もシャワーも使えず、トイレにも行けなくなるという状態が続いてしまいます。肉体的にはもちろん精神的にも疲労が重なるだけです。本当に日常の普通の生活を問題なくすごせることがいかに大事かを痛感します。
 
 ところで日本の水道の水質が世界中の中でも良質であることは多くの人が知ることだと思います。しかし、本書「水道が危ない」でも報告されていますが、水道水をそのまま飲める国は世界中で9カ国しかないことにも驚きました。
 
 世界中で日本のトイレ環境が際立って清潔であることも有名ですが、これも水道環境が整備されていることに関連があるのかも知れません。しかし、その貴重な日本の水道を取り巻く状況は、台風のような災害被害だけでなく、各地域の水道事業自体も危機的な状態にあるというのです。そのような状況の中で何よりも岩手県北上市の改革事例は注目すべき内容に間違いありません。また、全国の無効率(漏水)30%以上の49事業体もリストアップされており、水道管の老朽化改善も喫緊の課題となっていることが分かります。
 
 このように危機的な状況にある日本の水道事業ですが、もう一つ、注目されるのが水道事業の民営化の問題です。「日本が売られる」(堤未果著 幻冬舎)には、世界では何かと問題が多いことから、水道民営化から再公営化へ逆進している中で、日本が水道事業民営化を進行中だということをレポートしています。
 
 静岡県浜松市は2017年に下水道長期運営権を仏ヴェオリア社の日本法人と20年契約。大阪市が18年から市内全域の水道メーター検診・計量審査と水道料金徴収業務を、同社に委託。宮城県も20年から県内の下水道事業の運営権を民間企業に渡す方針でいるといいます。さまざまな変革に迫られている水道事業ですが、今後の全国の展開が注目されます。

関連本

Book.(Manga)勝たなくても過酷な猛特訓で得たものは大きい「『七帝柔道記(6)完結編』」

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「七帝柔道記(6)」
(原作、増田俊也、漫画、一丸 小学館)

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 柔道やレスリング、空手、格闘技などをしているか関心のある人でしか聞いたことがないと思われる「七帝柔道」ですが、大学生時代にこの柔道に力を注ぎ青春時代をおくった人物が描いたのが「七帝柔道記」(原作・増田俊也、漫画・一丸 小学館)です。
 原作者の増田俊也さんは、史上最強の柔道家木村政彦の生涯を追った評伝「木村政彦はなぜ、力道山を殺さなかったのか」(新潮社)で大宅ノンフィクション大賞と新潮ドキュメント賞を受賞。その後、増田さんは北海道大学在学中に在籍した柔道部の4年間の記録を「七帝柔道記」(KADOKAWA)として書き上げ、一丸さんによって漫画化されました。一丸さんには「おかみさん」(小学館)全17巻などの著作があります。

増田さんはこの柔道がやりたくて、二浪して北海道大学に進学しました。しかし、多くの体育会系の部に入部した新人が経験するのと同じように、地獄の特訓を続ける先輩たちの姿を見て驚愕します。柔道の講道館ルールでは、「立ち技」で技をかけた後以外は寝技をかけてはいけないとされていますが、「七帝柔道」では「待て」はないことから、寝技が延々と続きます。現在、総合格闘技などでも寝技が続くことがありますが、これは「七帝柔道」の流れを継いでいるものとみられています。
 このほど発売された「七帝柔道記(6)」は講道館柔道とは対照的な七帝柔道の北海道大学柔道部の活動や増田選手と、その仲間たちの姿を描いたシリーズ完結編です。

 

辛い柔道を続ける意味

増田選手は練習中に左ひざのじん帯を切ってしまい全治3か月と診断されてしまいます。当然ながら3週間後に迫った「七帝戦」本番の「第36回国立七大学柔道優勝大会」にも出場することはできません。
 増田選手の入院先には次々に部員がなけなしの見舞金を持参してきます。トラック運転手、守衛、コンビニ店員など共同の入院部屋にはさまざまな職業の人が入院していました。その中の一人には全身が入れ墨の患者もいて、一緒にお風呂に入った時に、相手が増田選手の鍛え上げられた筋肉に驚き、以降は親しみを持って話しかけてくるようになったのです。

歩くことすらできない増田選手は毎日のように見舞いに来る部員や、先輩から投げかけられた言葉の意味、血の涙が出ると思うほど辛く自分が柔道を辞めたいと思った時のこと、そして自分にとっての柔道や練習の意味を考えるようになります。
 やがて、「第36回国立七大学柔道優勝大会」が開催。増田選手は応援席から部員たちの活躍を応援します。今まで一度も勝ったことのない北大柔道部員は、それぞれの選手が必死に試合に挑みます。
 

柔道は戦記で従軍記

 Commentブログ筆者
 「七帝柔道記」は大学時代に柔道に身を捧げた男たちの青春物語ですが、筆者である増田俊也さんは、「週刊読書人」のインタビューの中で、後輩への鎮魂歌として書いたと話しています。後輩は24歳の若さで夭逝し、もう一人は25歳で病死したのです。
 インタビュー後半の中では、「『七帝柔道』は15人の団体戦で一人ひとりの選手が他の選手のために身を捨てて頑張る、命をかけて頑張る、だからある意味で従軍記、戦記そのものです」と話しています。
 
 漫画版は一丸さんの絵筆によりとても親しみが持て、読みやすい内容になっていますが、原作者の書いた心情背景には、やはり柔道部の重く苦しい地獄のような特訓や試合の日々が青春の思い出として残っていたのだと思われます。
 しかも、北大柔道部は勝つことがなく、健闘しても敗者復活戦のような「小さな試合」を行うのが精一杯の状況でした。増田さんはこの誰にも注目されない「小さな試合」こそが大切だと主張しているのです。そこにも一人一人の経験や思いは確実に存在するというのです。
 
 「七帝柔道」では常勝ではなかった北大柔道部ですが、先に増田さんが「七帝柔道記」を戦記だと話したことを物語ることがあります。

増田さんの後輩に中井祐樹さんがいます。
 中井さんは北海道大学の柔道部を12年ぶりに優勝に導きました。以降、総合格闘家になり、1995年のバーリトゥード・ジャパン・オープンに出場。1回戦のジェラルド・ゴルドー戦でゴルドーの反則サミングで右眼を失明しながらも勝ち上がり、決勝でヒクソン・グレイシ-と闘った経緯があります。引退後はブラジリアン柔術家として復活しました。現在は柔術を通して子供など多くの人たちを指導しています。
 
 この中井さんと増田さんが対談した著書「本当の強さとは何か」(新潮社)には、女性の護身術について触れている個所があります。女性の護身術というのは、いわゆる合気道など護身術につながるといわれているものを身につけるのではなく、むしろ、攻撃をかわす筋肉力や、瞬発力、ステップの力をつけることの方が大事で、ラグビーや野球でも十分に護身術の力になるということです。

関連本

BOOK.「緊急事態にどう備えるか。自衛隊員が伝授する災害別テクニック『自衛隊防災BOOK2』」

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自衛隊防災BOOK2」
(マガジンハウス)

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 9月9日に千葉県に被害をもたらした台風15号に続き、10月12日には大型の台風19号が関東、東北、北海道地区を襲いました。この台風は、2か月の降水量が1日で降るという今までに経験したことのない豪雨により長野県の千曲川のほか、東京都内、福島県宮城県などで川が決壊するなど甚大な被害をもたらしました。
 台風、豪雨、地震、・・・・年々、日本を襲う災害の数は増えつつあります。暴風は民家の屋根を吹き飛ばし、豪雨は川を決壊させ民家に浸水し、住民を襲います。災害はライフラインも破壊し停電や断水も発生させます。
 生きるか死ぬかに追い込まれる状況にどう備え対応すべきか。現在、災害対策本は数多く出版されています。中でも30万部を発行したのが昨年8月に発売された「自衛隊防災BOOK」(マガジンハウス)です。

この本には地震、台風、豪雨に役立つ危機管理のプロによる直伝のテクニックが分かりやすいイラストと写真と文章で100例をまとめています。1作目のパート1では自分の胸の高さ以上に荷物や物を置かないこと、地震発生に備えての部屋管理の仕方や、断水に備え風呂に水を貯めること、電車に立って乗車している場合は、両手でつり革を持つなど基本的なことが書かれています。
 自宅で停電した時は懐中電灯にナイロン袋を付けてランタン代わりにする。緊急時に自分の電話は使えなくなった場合は、無料の公衆電話を使う。非常食には「かんぱん」と「板チョコ」が少量でもエネルギーに変わりやすい。缶切りがない場合には、缶の蓋をコンクリートなどにこすり、側面を押すと缶が開くなどの方法も紹介されています。
 以外と基本的なことは忘れがちですが、再度、確認することも大事ですね。
 
 そして、今年の10月に発売されたのがパート2の「自衛隊防災BOOK2」(マガジンハウス)です。同著には全国の自衛隊員が伝授する災害別テクニック129が掲載されています。パート1同様にイラストと写真をふんだんに使用し、読みやすく理解しやすい内容になっています。

 

災害でのケガ対策も

自衛隊防災BOOK2」では「大雨から、安全に身を守る方法」「地震の発生時&被災後を乗り切るには」「強風が吹いた時にケガを回避する方法」などについてのテクニックを以下に伝授しています。
 自宅にいて「大雨注意報」が出たら、排水溝を掃除することです。大雨による冠水、浸水被害を抑えるには、家の周りの排水溝を掃除し、雨水の流れをよくしておくことが重要です。落ち葉やごみが溜まっていると水がながれにくくなってしまいます。また車が浸水した場合は、むやみにエンジンをかけないことです。排気口が水につかった状態でエンジンをかけると、エンジンが故障するのはもちろん、電気系統のショートで火事が発生する可能性があります。
 
 会社にいて大地震に遭遇した場合は、上方からの落下物を防ぐために、ヘルメットをかぶるかパイプ椅子をヘルメットがわりにすることです。自宅にいて遭遇した場合は、トイレの扉を開けたままにして中に避難するのも安全な避難方法の一つです。
 
 火事や地震で逃げる途中に捻挫した場合は、タオルやネクタイなどで足首をしばり90度に保つ。次にネクタイを足の甲でクロスし、足裏で交差させる。また、ガラスが割れて破片が足に刺さった場合は、自分で抜いたりすると傷がひどくなる可能性があることから、むやみに破片をぬかずに、刺さった周りにガーゼやホワイトテープをはり包帯を巻いてしっかり固定し病院で手当てする・・・・などを挙げています。
 

災害で戦場化する日常

Commentブログ筆者
 9月から10月にかけて日本を震撼させる大型の台風による被害が相次いでいます。9月の台風15号は強風で千葉県の館山などに住む方々の民家を襲い屋根を吹き飛ばしました。この強風で電柱が破損し停電が発生、被害を受けた全域が復旧するまでに3週間以上がかかりました。
 
 この状況から1か月が経過した10月12日から13日には関東、東北、北海道地区を襲った台風19号では、2か月に降る雨が1日で降るという大雨が降りました。長野県の千曲川をはじめ東京都内では多摩川が決壊したほか、栃木県、福島県宮城県など各地域で多くの川が決壊し停電も発生しています。

被害状況は17日現在、死者77人、行方不明者10人と発表されています。車はもちろん、家が水没してしまうという大災害です。日本はここ数年では、地震だけでなく、水害の被害が年々、拡大しているのです。台風19号についても2万人の自衛隊が救援活動に動いています。
 
 東日本大震災や昨年7月に四国や広島県で発生した西日本豪雨では救助活動にあたった自衛官の「まるで戦場だった」という発言を聞きましたが、災害が発生した場合に日本はいつ、どこで戦争と変わらない悲惨な状況に追い込まれるか分からない環境にあります。あらゆる事態を想定し備えなければいけません。
 今回の台風で被災された方々の健康と、一日も早い復旧を祈念致します。

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