musashiman’s book review

一般の話題本や漫画を紹介しています。

Book.「痛くて辛くて当たり前、病気があり健康がある 樹木希林『この世を生き切る醍醐味』」

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「この世を生き切る醍醐味」
樹木希林著、朝日新聞出版)

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 女優の樹木希林さんが他界して1年と1か月が経過しました。樹木さんはテレビドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」や、映画「わが母の記」「東京タワー~オカンとボク」「神宮希林 わたしの神様」「あん」「万引き家族」「日々是好日」など数多くのドラマや映画に出演。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞のほか、2008年に紫綬褒章、14年には旭日小褒章を受章しました。
 一方で03年には網膜剥離で左目の視力を失い、2年後には乳がんにより右乳房を全的手術し、13年には全身ガンであることを公表。以降も精力的に女優業をこなしてきました。樹木さんの偉大さは映画作品はもちろんですが、現在も続く出版物をみても分かります。
 

 死後3か月が経過して発売された「一切なりゆき」(樹木希林著、文藝春秋)は150万部を超えるベストセラーとなり、今年に入ってからは「樹木希林120の遺言~死ぬときぐらいは好きにさせてよ」(宝島社)、「樹木希林 ある日の遺言 食べるのも日常 死ぬのも日常」(小学館)、「この世を生き切る醍醐味」(樹木希林著、朝日新聞出版)、「老いの重荷は神の賜物」(樹木希林著、集英社)などが発売されています。中でも「この世を生き切る醍醐味」は、希林さんが他界する半年前にインタビューされたものを収録。加えて娘・内田也哉子さんが語る母親についてのインタビューも併録されています。ドラマ、映画、病気、夫、家族について希林さんがストレートに語り尽くしています。
 

忘れなかった心の余裕

樹木希林さんがいかに優れた女優だったのかは、希林さんが出演して、これまで話題になったドラマやテレビCM、映画を通じて知る人は多いと思います。しかし、プレイベートはどんな女性で母親、妻だったかを知る人はそう多くはいません。
 「この世を生き切る醍醐味」には娘・内田也哉子さんが母親について実直に以下に語っています(ブログ筆者が本書から抜粋引用し、作成しています)。
 
 母はあれだけの病気を抱えていて、一度たりとも「つらい」とか「痛い」とか弱っているところを見せたことがなかったですね。死に対しても未知の体験なんだから、怖かった部分もあったと思います。
 でも、母は「怖い」「苦手だ」「嫌だ」ということにぶつかった時の対処の仕方をいっぱい訓練してきていました。だから、試練をどう自分が受け止めるか、あるいは乗りこなせるかっていう心構えがあったのではないしょうか。
 

病気になってからは、ちょっと修行僧のような雰囲気がありました。痛くて当たり前、つらくて当たり前、怖くて当たり前っていうところから、「さあ、自分はどう生きるか」っていうことを、頭の片隅に置きながら自分自身とずーっと問答しているような感じに見えました。それでいて、いつもユーモアがありました。より強く心の余裕を持って、おかしみを常に携えて、何事にも向き合っていきたいっていう、精神が決まっていたようでした。娘ながら「本当にこの人は、人間なのかな?」って思うこともありました。
 

本当に自立した大女優

Commentブログ筆者
 数年前にちょうど人生の進路転換を模索していた時期に、ブログ筆者は偶然に「あん」(監督・脚本 河瀬直美、原作・ドリアン助川)という映画を観ました。ブログを書き始めて以降は、なかなか映画を観る時間が少なくなってしまったのですが、当時は1週間に2本は観ていました。
 
 ジャンルは洋画のアクションから推理、SFなど多岐に渡っていますが、邦画も欠かさずに観ていました。「あん」はレンタルショップの棚に話題作としてピックアップされていたのです。この映画の主役が樹木希林さんでした。
 
 この頃、既に希林さんは全身ガンであるということを公表していました。できれば長生きしていただきたいと思っていましたが、その想いは「あん」という映画を観て、より強くなりました。それから数年が経過しても、希林さんは主役ではありませんが、多くの映画に出演されていましたので、まだまだ長生きをされると思っていた矢先に訃報を耳にしました。
 
 以降、映画はもちろんですが、テレビ番組の特集や書籍等でも希林さんについて知ることができました。それまで希林さんは素晴らしい女優さんだという印象はありましたが、実はここまで自立された方だとは思っていませんでした。
 
 女優で生計を立てること自体が優れた方ですが、一方では不動産業も営み、しかも女優業はマネージャーはつけずに全て自分でマネジメントし、事務所は自宅兼用という生活を送ってこられたのです。
 これまでの活動を見てきても、全てが常に自分の行うことを社会や家族などに還元できるかを考えてきた、希林さんの確固たるポリシーを伺い知ることができます。60歳で左目を失明し、乳がんで右乳房を摘出、そして全身ガンと14年も闘いながら、あくまでユーモアを忘れずに、常に周りを明るくしていた希林さんは、旅立って以降も、多くのメッセージを発信し続けてくれています。
 
 「この世を生き切る醍醐味」の後半で希林さんは次のように述べています(ブログ筆者が本書から抜粋、作成しています)。
 「自分の身体は自分のものだって思っていたんですけど、借り物だって思えるようになりました。親から生んでもらった身体をお借りしているんだと。そこにね、なんだか分からない私という性格が入っているんだと。これだけたくさんのガンをもっていると、いつかは死ぬではなく、いつでも死ぬという感覚なんですよ。お借りしていたものをお返しするという気持ちだから楽です」

関連本

Book.「水道水がそのまま飲める世界9カ国の中の一つ 日本の『水道が危ない』」

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「水道が危ない」
(菅沼栄一郎、菊池敏明著 朝日新聞出版)

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 過疎地での簡易水道の窮状、頻発する老朽水道菅漏水事故、水あまりで、もてあまされるダム、繰り返される赤字と急激に進む少子化で懸念される料金の値上げ・・・・・収入減少下になり迫られる大量の設備機器の更新投資など、現在、日本の水道事業を取り巻く環境は、世界のどの国も経験したことのない未曾有の危機を迎えています。
 
 世界中で「水道水をそのまま飲める」国は、ドイツ、デンマークノルウェーフィンランド南アフリカアイスランドオーストリアアイルランド、そして日本の9カ国だけですが、水質基準も日本はトップクラスにあります。その日本の水道事業が今、どのように危機的状況にあり、どう改善していけばよいのか。
 普段、私たちが空気同様に水は水道管から出るのが当然と使用している「水道の真実」について報告したのが「水道が危ない」(菅沼栄一郎、菊池明敏著・朝日新聞出版)です。

 


著者のひとりである菊池明敏さんは岩手県北上市で水道事業の改革を推進してきた人物です。菊池さんは下水課に着任した2006年当時、年に6億円余の赤字を出してきた北上市の下水道事業を改革。水源や浄水場を大幅に減らすために花巻市紫波町に統合を持ちかけ、14年に岩手中部水道企業団に統合。5浄水場を廃止し76憶円の投資を削減するなど尽力しました。

肩書は岩手中部水道企業団前局長で現在参与、総務省地方公営企業等経営アドバイザー。もう一人の著者である菅沼栄一郎さんは、朝日新聞地域報道部シニア記者で著書に「村が消えた―平成大合併とは何だったのか」等があります
 

「水道が危ない」には全国に先駆けて「水道事業の広域統合」を成し遂げている岩手中部水道企業団メンバーが、岩手県北上市の水道事業の改革経緯、今後の展開などについて話した座談会も収録しています。
 

設備費縮小で改善図る

世界の国々のどこも経験したことのない未曾有の危機的状況にある日本の水道環境・・・・現在、日本の水道事業はどんな状況なのでしょうか。戦後から近年までの第一世代の水道整備は、人口増加に伴う使用数量の増加に伴う増収に支えられ、膨大な水道インフラを整備してきた日本の水道事業ですが、このインフラが老朽化し、収入源になる筈の人口の急激な減少が危機的状況の根本にあります。
 
 加えて一人当たりの使用量の減少が定着し、中でも節水機器の機能向上で、風呂、洗濯機、食洗機、感知型節水栓、中水利用など節水機能が向上して、平成初期と比較し1~3割減少。特に著しいのがトイレ洗浄水で、初期タイプの洗浄水量は1回あたり約20リットルを使用していましたが、現在は4リットルを下回り、初期タイプと比較し7~8割減少しています。
 この状況に対処する手段はダウンサイジング(縮小)しかない。施設設備を削減しランニングコストを減少すれば利用効率が上がるのです。本書では具体的に水道事業、下水道事業、そして水道管路をどう改革しダウンサイジングすると、改善向上できるかがまとめられています。
 

漏水30%以上が49カ所

Comment ブログ筆者 
 今年の夏は台風による停電と断水で、電気や水など日常インフラの重要性を改めて認識している方は多いと思います。台風19号でも多くの方が停電、断水の被害にあいました。こと断水となると、夏の暑い中でお風呂もシャワーも使えず、トイレにも行けなくなるという状態が続いてしまいます。肉体的にはもちろん精神的にも疲労が重なるだけです。本当に日常の普通の生活を問題なくすごせることがいかに大事かを痛感します。
 
 ところで日本の水道の水質が世界中の中でも良質であることは多くの人が知ることだと思います。しかし、本書「水道が危ない」でも報告されていますが、水道水をそのまま飲める国は世界中で9カ国しかないことにも驚きました。
 
 世界中で日本のトイレ環境が際立って清潔であることも有名ですが、これも水道環境が整備されていることに関連があるのかも知れません。しかし、その貴重な日本の水道を取り巻く状況は、台風のような災害被害だけでなく、各地域の水道事業自体も危機的な状態にあるというのです。そのような状況の中で何よりも岩手県北上市の改革事例は注目すべき内容に間違いありません。また、全国の無効率(漏水)30%以上の49事業体もリストアップされており、水道管の老朽化改善も喫緊の課題となっていることが分かります。
 
 このように危機的な状況にある日本の水道事業ですが、もう一つ、注目されるのが水道事業の民営化の問題です。「日本が売られる」(堤未果著 幻冬舎)には、世界では何かと問題が多いことから、水道民営化から再公営化へ逆進している中で、日本が水道事業民営化を進行中だということをレポートしています。
 
 静岡県浜松市は2017年に下水道長期運営権を仏ヴェオリア社の日本法人と20年契約。大阪市が18年から市内全域の水道メーター検診・計量審査と水道料金徴収業務を、同社に委託。宮城県も20年から県内の下水道事業の運営権を民間企業に渡す方針でいるといいます。さまざまな変革に迫られている水道事業ですが、今後の全国の展開が注目されます。

関連本

Book.(Manga)勝たなくても過酷な猛特訓で得たものは大きい「『七帝柔道記(6)完結編』」

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「七帝柔道記(6)」
(原作、増田俊也、漫画、一丸 小学館)

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 柔道やレスリング、空手、格闘技などをしているか関心のある人でしか聞いたことがないと思われる「七帝柔道」ですが、大学生時代にこの柔道に力を注ぎ青春時代をおくった人物が描いたのが「七帝柔道記」(原作・増田俊也、漫画・一丸 小学館)です。
 原作者の増田俊也さんは、史上最強の柔道家木村政彦の生涯を追った評伝「木村政彦はなぜ、力道山を殺さなかったのか」(新潮社)で大宅ノンフィクション大賞と新潮ドキュメント賞を受賞。その後、増田さんは北海道大学在学中に在籍した柔道部の4年間の記録を「七帝柔道記」(KADOKAWA)として書き上げ、一丸さんによって漫画化されました。一丸さんには「おかみさん」(小学館)全17巻などの著作があります。

増田さんはこの柔道がやりたくて、二浪して北海道大学に進学しました。しかし、多くの体育会系の部に入部した新人が経験するのと同じように、地獄の特訓を続ける先輩たちの姿を見て驚愕します。柔道の講道館ルールでは、「立ち技」で技をかけた後以外は寝技をかけてはいけないとされていますが、「七帝柔道」では「待て」はないことから、寝技が延々と続きます。現在、総合格闘技などでも寝技が続くことがありますが、これは「七帝柔道」の流れを継いでいるものとみられています。
 このほど発売された「七帝柔道記(6)」は講道館柔道とは対照的な七帝柔道の北海道大学柔道部の活動や増田選手と、その仲間たちの姿を描いたシリーズ完結編です。

 

辛い柔道を続ける意味

増田選手は練習中に左ひざのじん帯を切ってしまい全治3か月と診断されてしまいます。当然ながら3週間後に迫った「七帝戦」本番の「第36回国立七大学柔道優勝大会」にも出場することはできません。
 増田選手の入院先には次々に部員がなけなしの見舞金を持参してきます。トラック運転手、守衛、コンビニ店員など共同の入院部屋にはさまざまな職業の人が入院していました。その中の一人には全身が入れ墨の患者もいて、一緒にお風呂に入った時に、相手が増田選手の鍛え上げられた筋肉に驚き、以降は親しみを持って話しかけてくるようになったのです。

歩くことすらできない増田選手は毎日のように見舞いに来る部員や、先輩から投げかけられた言葉の意味、血の涙が出ると思うほど辛く自分が柔道を辞めたいと思った時のこと、そして自分にとっての柔道や練習の意味を考えるようになります。
 やがて、「第36回国立七大学柔道優勝大会」が開催。増田選手は応援席から部員たちの活躍を応援します。今まで一度も勝ったことのない北大柔道部員は、それぞれの選手が必死に試合に挑みます。
 

柔道は戦記で従軍記

 Commentブログ筆者
 「七帝柔道記」は大学時代に柔道に身を捧げた男たちの青春物語ですが、筆者である増田俊也さんは、「週刊読書人」のインタビューの中で、後輩への鎮魂歌として書いたと話しています。後輩は24歳の若さで夭逝し、もう一人は25歳で病死したのです。
 インタビュー後半の中では、「『七帝柔道』は15人の団体戦で一人ひとりの選手が他の選手のために身を捨てて頑張る、命をかけて頑張る、だからある意味で従軍記、戦記そのものです」と話しています。
 
 漫画版は一丸さんの絵筆によりとても親しみが持て、読みやすい内容になっていますが、原作者の書いた心情背景には、やはり柔道部の重く苦しい地獄のような特訓や試合の日々が青春の思い出として残っていたのだと思われます。
 しかも、北大柔道部は勝つことがなく、健闘しても敗者復活戦のような「小さな試合」を行うのが精一杯の状況でした。増田さんはこの誰にも注目されない「小さな試合」こそが大切だと主張しているのです。そこにも一人一人の経験や思いは確実に存在するというのです。
 
 「七帝柔道」では常勝ではなかった北大柔道部ですが、先に増田さんが「七帝柔道記」を戦記だと話したことを物語ることがあります。

増田さんの後輩に中井祐樹さんがいます。
 中井さんは北海道大学の柔道部を12年ぶりに優勝に導きました。以降、総合格闘家になり、1995年のバーリトゥード・ジャパン・オープンに出場。1回戦のジェラルド・ゴルドー戦でゴルドーの反則サミングで右眼を失明しながらも勝ち上がり、決勝でヒクソン・グレイシ-と闘った経緯があります。引退後はブラジリアン柔術家として復活しました。現在は柔術を通して子供など多くの人たちを指導しています。
 
 この中井さんと増田さんが対談した著書「本当の強さとは何か」(新潮社)には、女性の護身術について触れている個所があります。女性の護身術というのは、いわゆる合気道など護身術につながるといわれているものを身につけるのではなく、むしろ、攻撃をかわす筋肉力や、瞬発力、ステップの力をつけることの方が大事で、ラグビーや野球でも十分に護身術の力になるということです。

関連本

BOOK.「緊急事態にどう備えるか。自衛隊員が伝授する災害別テクニック『自衛隊防災BOOK2』」

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自衛隊防災BOOK2」
(マガジンハウス)

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 9月9日に千葉県に被害をもたらした台風15号に続き、10月12日には大型の台風19号が関東、東北、北海道地区を襲いました。この台風は、2か月の降水量が1日で降るという今までに経験したことのない豪雨により長野県の千曲川のほか、東京都内、福島県宮城県などで川が決壊するなど甚大な被害をもたらしました。
 台風、豪雨、地震、・・・・年々、日本を襲う災害の数は増えつつあります。暴風は民家の屋根を吹き飛ばし、豪雨は川を決壊させ民家に浸水し、住民を襲います。災害はライフラインも破壊し停電や断水も発生させます。
 生きるか死ぬかに追い込まれる状況にどう備え対応すべきか。現在、災害対策本は数多く出版されています。中でも30万部を発行したのが昨年8月に発売された「自衛隊防災BOOK」(マガジンハウス)です。

この本には地震、台風、豪雨に役立つ危機管理のプロによる直伝のテクニックが分かりやすいイラストと写真と文章で100例をまとめています。1作目のパート1では自分の胸の高さ以上に荷物や物を置かないこと、地震発生に備えての部屋管理の仕方や、断水に備え風呂に水を貯めること、電車に立って乗車している場合は、両手でつり革を持つなど基本的なことが書かれています。
 自宅で停電した時は懐中電灯にナイロン袋を付けてランタン代わりにする。緊急時に自分の電話は使えなくなった場合は、無料の公衆電話を使う。非常食には「かんぱん」と「板チョコ」が少量でもエネルギーに変わりやすい。缶切りがない場合には、缶の蓋をコンクリートなどにこすり、側面を押すと缶が開くなどの方法も紹介されています。
 以外と基本的なことは忘れがちですが、再度、確認することも大事ですね。
 
 そして、今年の10月に発売されたのがパート2の「自衛隊防災BOOK2」(マガジンハウス)です。同著には全国の自衛隊員が伝授する災害別テクニック129が掲載されています。パート1同様にイラストと写真をふんだんに使用し、読みやすく理解しやすい内容になっています。

 

災害でのケガ対策も

自衛隊防災BOOK2」では「大雨から、安全に身を守る方法」「地震の発生時&被災後を乗り切るには」「強風が吹いた時にケガを回避する方法」などについてのテクニックを以下に伝授しています。
 自宅にいて「大雨注意報」が出たら、排水溝を掃除することです。大雨による冠水、浸水被害を抑えるには、家の周りの排水溝を掃除し、雨水の流れをよくしておくことが重要です。落ち葉やごみが溜まっていると水がながれにくくなってしまいます。また車が浸水した場合は、むやみにエンジンをかけないことです。排気口が水につかった状態でエンジンをかけると、エンジンが故障するのはもちろん、電気系統のショートで火事が発生する可能性があります。
 
 会社にいて大地震に遭遇した場合は、上方からの落下物を防ぐために、ヘルメットをかぶるかパイプ椅子をヘルメットがわりにすることです。自宅にいて遭遇した場合は、トイレの扉を開けたままにして中に避難するのも安全な避難方法の一つです。
 
 火事や地震で逃げる途中に捻挫した場合は、タオルやネクタイなどで足首をしばり90度に保つ。次にネクタイを足の甲でクロスし、足裏で交差させる。また、ガラスが割れて破片が足に刺さった場合は、自分で抜いたりすると傷がひどくなる可能性があることから、むやみに破片をぬかずに、刺さった周りにガーゼやホワイトテープをはり包帯を巻いてしっかり固定し病院で手当てする・・・・などを挙げています。
 

災害で戦場化する日常

Commentブログ筆者
 9月から10月にかけて日本を震撼させる大型の台風による被害が相次いでいます。9月の台風15号は強風で千葉県の館山などに住む方々の民家を襲い屋根を吹き飛ばしました。この強風で電柱が破損し停電が発生、被害を受けた全域が復旧するまでに3週間以上がかかりました。
 
 この状況から1か月が経過した10月12日から13日には関東、東北、北海道地区を襲った台風19号では、2か月に降る雨が1日で降るという大雨が降りました。長野県の千曲川をはじめ東京都内では多摩川が決壊したほか、栃木県、福島県宮城県など各地域で多くの川が決壊し停電も発生しています。

被害状況は17日現在、死者77人、行方不明者10人と発表されています。車はもちろん、家が水没してしまうという大災害です。日本はここ数年では、地震だけでなく、水害の被害が年々、拡大しているのです。台風19号についても2万人の自衛隊が救援活動に動いています。
 
 東日本大震災や昨年7月に四国や広島県で発生した西日本豪雨では救助活動にあたった自衛官の「まるで戦場だった」という発言を聞きましたが、災害が発生した場合に日本はいつ、どこで戦争と変わらない悲惨な状況に追い込まれるか分からない環境にあります。あらゆる事態を想定し備えなければいけません。
 今回の台風で被災された方々の健康と、一日も早い復旧を祈念致します。

関連本

Book(Manga).ある名もなき女性の一代記、伊勢湾台風完結編 浦沢直樹「あさドラ!(2)」

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「連続漫画小説 あさドラ!(2)」
浦沢直樹著、小学館

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 浦沢直樹先生の「連続漫画小説 あさドラ!」は「週刊ビックコミックスピリッツ」に名作「21世紀少年」以来、11年ぶりに連載を開始した漫画で、浅田アサという12歳の少女が主人公です。このほど第2巻が発売されました。
「連続漫画小説 あさドラ(1)」の冒頭は2020年の東京に災害が発生する衝撃的な幕開けから、1959年に名古屋を襲った伊勢湾台風の画面へと一転します。被害を受けたアサは、南方での戦争経験者で7人の乗組員を無事に故郷に運ぶために、敵の攻撃を受けながらも陸上攻撃機(飛行機)を操縦する男に誘惑されてしまいます。男は日本に帰国後、仕事に失敗し路頭に迷っていたのです。しかし、そんな二人に容赦なく台風が襲ってきます。台風は東日本大震災を彷彿させるような絵として全編を通して描かれています。

連続漫画小説 あさドラ(2)」では男とアサが飛行機に乗りながら、雨水に沈んだ家の屋根から被災した住人たちに救援物資を届け続けます。浦沢先生はラジオ番組「純二と直樹」(文化放送、毎週日曜日 午後5時放送)の中で同巻の漫画について「実際に飛行機が飛んでいるように描きたかったから、飛行機のプロの方にもいろいろお話を聞いた」と話しています。漫画を実際に読みながら、読者が空を飛んでいるような感覚になるスピード感のある展開になっています。

また、第16話「ふりむかないで」では、漫画の中のあるシーンでザ・ピーナッツの歌をバックに女性がダンスする姿を描いていますが、設定曲を間違えて描いたことに締め切り日前の夜中の3時に気づき、描き直したというエピソードも披露しています。
 得体の知らない何かの爪痕が出てきたり、どこかミステリアスでスピード感のある漫画ですが、今後、アサがどのように成長していくかも注目されます。

 
 

どこか謎も多い作品

「アサドラ!(2)」の冒頭は探検隊が密林を探検しながら、ある木についた爪痕に驚愕するシーンからスタート、やがて、アサたちの被災した1964年の場面へと移ります。アサを誘惑した男は飛行機を操縦しながらも、やがて手に負った怪我が原因で操縦できなくなりアサに命じます。予想できない方向に物語が次々に展開するので、ドキドキ、ハラハラします。
 
 冒頭に出てくる謎の巨大生物の爪痕で思い出されるのは、4月末に発売された短編集「くしゃみ」で描かれた「怪獣王国」です。この漫画では巨大な怪獣が観光都市の東京を襲う内容が描かれていますが、やがて、この怪獣に毅然と立ち向かう者が現れます。
 この作品集には「DAMIYAN!」「月に向かって投げろ!」「親父衆」「いっつあびゅてぃふるでぃ」など8編が収録されています。「いっつあびゅてぃふるでぃ」はフォーク歌手で友人の遠藤賢司さんから聞いた話を漫画化しています。

なんと驚くことに、井上陽水さんや遠藤さんたちが無名時代に、地方の公演後に出かけたストリップ劇場でのエピソードがノスタルジックに描かれているのです。他に手塚治虫文化賞記念ムックに書いた作品など読み応えのある作品がラインナップされています。
 

強い女性を描き続ける

Commentブログ筆者
 浦沢先生は手塚治虫文化賞大賞を2度受賞している唯一の漫画家で、コミックスの売り上げが国内で1億2700万部以上を発行しています(ウイキペディア)。本業の漫画だけでなく、大学教授やラジオのDJからテレビ番組出演まで幅広く活躍しているので、漫画好きはもちろん、一般の人でも知らない人はいないのではないかと思います。
 
 2015年から17年まではNHKのEテレでは浦沢先生が、活躍中の漫画家にインタビューしながら、創作秘話や創作模様をドキュメントで放送する「漫勉」も放送されました。ご本人の特集「漫勉 浦沢直樹」では、本人が「BILLY BAT!」の最終回のネーム入れ、ペン入れまでが映像として公にされました。
 
 「BILLY BAT!」最後のシーンでは少年が本を高く掲げるシーンが3度の下書きを経て描かれる様子を放送しています。「本が本当に大事でした。図書館で小学生の女の子が本を開いて、驚いたり関心したりする様子を見たことがあります。本がその人を変えたり、救ったりすることはあると思います。そういうものを創りたいですね」と番組の中で、浦沢先生は、本を掲げる少年のコマについてのエピソードを話しています。
 
 浦沢作品には「MONSTER」「MASTERキートン」とは対照的に「Happy!」や「YAWARA!」など少女や女性を主人公にした漫画が多いのも特徴の一つです。「連続漫画小説 あさドラ!」も女性が主人公です。
 常に時代と呼応するテーマを設定してきた浦沢先生が新作で描くのは、災害に遭遇しながらも負けずに懸命に生きようとする女性の一代記です。今後の展開が楽しみな作品です。

関連本

Book.<斬新な企画やアイデアはこうして生み出す「『面白い』のつくりかた」>

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「面白いのつくり方」
佐々木健一著 新潮社)

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 仕事でプレゼンテーションを成功させたい、営業で商談を成功させるために営業力を強化したい・・・はビジネスパーソンに多い悩みです。仕事では他人から自分の提案する内容が「面白い」と思われ成功するケースは多々あります。
 「『面白い』」のつくりかた」(新潮社)は、長年にわたり「面白い」を追求してきた著者の佐々木健一さんが、そのノウハウ、発想法を披露しています。
 佐々木さんはNHKエデュケーショナルのディレクターとして、気象学で世界を救った人物やえん罪弁護士などを特集したドキュメンタリー「ブレイブ 勇敢なる者」(NHK総合)などの番組を企画・制作してきました。著作も多く「辞書になった男」「背番号を背負った男」などがあります。「『面白い』」のつくりかた」でも、佐々木さんがアイデア力をつけるために参考になった著書も紹介しています。

 


 インターネットの登場以降、Netflixや「Amazonプライムビデオサービス」などネット系動画配信サービスやニュースが増加し「テレビは以前に比べて面白くない」と感じている人は多いと思います。
 しかし、かつての勢いを失いながらもテレビはいまだ健在で、影響力が大きいことも事実です。検索ワードランキングや「Twitter」のトレンドでは、テレビ番組やテレビタレントの話題が上位を占めています。YouTubeで100万回再生された動画でも、テレビの視聴率は1%にしか過ぎません。
 なぜ、オワコン(終わったコンテンツ)と揶揄されるテレビは終わらないのか。大方の予想に反してしぶとくテレビは生き残っているのです。これらの理由も含め、映画やテレビ番組のヒット作品の生まれた背景や過程を、佐々木さん自身の体験も交えながら披露しています。

面白いは差異に関係

「面白い」「人の心を動かす」とはどんな感覚でしょうか。予想していたことよりも「驚き」「ギャップ」「意外性」「落差」の「差異」があった場合、人は心を動かし楽しいとか、悲しい、面白いと感じる。つまり、「差異」が深くかかわってくるのです。そして、そこでは深い「共感」へと導くものが重要になってきます。
 
 では、どうしたら、「面白い」企画やアイデアは生まれるのでしょうか。「世の中の新しいものは、全て組み合わせから生まれる」といっても過言ではありません。例えば、「ポケモンGO」はスマホ向け位置情報ゲームアプリ「Ingress」と「ポケットモンスター」の世界観を組み合わせたものです。足し算や掛け算だけでなく引き算の組み合わせでは、Twitterは、従来のブログ機能にあえて、「文字数を1回の投稿につき140字に制限する」サービスです。
 
 また、「クリエイティブ」な発想や仕事とはどんな内容をいうのでしょうか。直訳すれば「創造的な」「独創的な」という意味ですが、映画監督の黒澤明さんは「創造とは記憶である」と大島渚監督との対談の中で述べています。つまり、様々な経験を積み、先人の仕事を知り、学ぶという蓄積がなければ、クリエイティブな仕事もできないということになります。もちろん、ただ先人の真似をしたりコピーするのではなく、教えられた通りではなく、独自の方法論を実践できなければなりません。
 そして、何よりも求められるのは構成力です。「始まり」と「終わり」の間をどんな展開にするかによって、物事の伝え方やコンテンツ内容はガラリと変わってしまうのです。構成力は根本的な要素になります。
 

差異と共感の内包

Commentブログ筆者

「『面白い』のつくり方」でも2015年ラグビーW杯で日本ラグビー代表が、当時の優勝候補だった南アフリカ代表チームに勝利した話題を挙げていますが、今年のラグビーW杯では、もっと驚くことが起こっています。日本代表が3連勝(10月5日現在)しているのです。
 
 この状況は日本はラグビー弱小国だったと感じている国民に驚き(差異)を与え、最大の関心事となっています。10月5日のサモア戦の平均視聴率19.3%、瞬間最高視聴率25.2%(ビデオリサーチ)は、国民の約4分の1である2500万人がテレビで観戦していたことになります。
 それまで負け続けていたチームが、強敵に勝利するという「差異」が大きければ大きいほど、関心事は高まりフアンは増えていくのです。もちろん、この4年間に日本チームがどのように強くなってきたかは、これからさまざまに注目されることです。
 
 また、佐々木さんは著書の中で東海テレビのドキュメンタリー番組が話題になることが多いことを例に挙げながら、根底には世間の常識や先入観との「差異」と「共感」を内包していると指摘しています。
 そういえばブログ筆者が、どんなに忙しくても決して見落とさないテレビ番組に、フジテレビが毎週日曜日に放送している「ノンフィクション」があります。この番組もドキュメンタリー番組です。番組によっては、10年の歳月をかけ追いかけているものもあります。
 テレビ番組が、NHK以外になかなかドキュメンタリーや調査報道番組が制作されない状況になっている中で、民放のドキュメンタリーは貴重ですが、やはり、この番組にも「差異」と「共感」が内包されているのかも知れません。 

関連本

Book.災難を近づけない技がある「『<人生の災害>に負けないマインドレスキュー』」

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「人生の災害に負けないマインドレスキュー」
(矢作直樹著、山と渓谷社

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 病気やけが、肉親や親しい人の死、離婚、過労、リストラ、失業・・・そして災害。私たちは毎日の生活をおくりながら、数々の試練にさらされます。なかでも最近、特に増えているのが災害です。地震津波、火山噴火、台風や大雨による洪水、土砂災害など、日本は自然災害が発生しやすい国です。
 「『<人生の災害>に負けないマインドレスキュー』」(矢作直樹著、山と渓谷社)では、マインドレスキュー(心の救済)をテーマに、元救急・集中治療、内科医の矢作直樹先生が、東日本大震災をはじめとするさまざまな事例から、自然災害はもとより、突如に襲ってくる「人生の災害」を乗り切るために必要な考え方、心構え、災難を近づけない技などについてまとめています。
 矢作先生は元東京大学大学院 新領域創成科学研究科環境学専攻および工学部精密機械工学科教授で、2001年から16年まで同学院医学部付属病院で救急部・集中治療部部長として東大病院の総合救急医療体制の確立に尽力。現在は東京大学名誉教授

 


  マインドレスキューを考えるなかで忘れられないのが、東日本大震災だといいます。それは数多くの人が一気に亡くなったことで起こった霊的な現象であり、この先、何十年にもわたり影響を及ぼし続ける放射能の問題、家をなくし家族や知人をなくした人々の今後の生き方や心の持ちようなど多くの問題は、被災された方々だけでなく、私たちに共通した問題でもあります。
 東日本大震災では震災後に被災地では数多くの怪奇現象の体験談や、目撃談が聞かれました。「霊性の心理学」(金菱清著 新曜社)は、被災地の生と死につて現場の状況をレポートしたノンフィクションですが、この本には多くの幽霊の話が登場します。
 これらは亡くなった人たちの魂が、われわれとともに今も生き続けていることの証拠でもあり、死後の世界の捉え方が変化する契機にもなります。人は死んだらどうなるのか、死に関しては不安に感じることはない、肉体は死んでも、人は死なないと書いています。困難にも挫けずに、前に進める一冊です。
 

何事にも動じない心

生きて社会に参加している以上は、いろいろな死に方があるのは当然だと矢作先生は喝破します。天災、事故、事件など、どんなきっかけであれ、生きている以上は、死ぬのは仕方ないと思わないと救われません。死を免れ生き残った人は、過去のことをくよくよしたり、悩んではいけません。いまを全力で生きることが大切です。そのためには何事にも動じない心を持つことが大切だといいます。
 
 その点では武士としての心構えは、何が起きても慌てない生き方の道標と言えます。神道では森羅万象に神が宿ると考えられていました。仏教などでも人間だけでなく、山川草木や生類にはすべて仏性があると考えられてきました。神道や仏教、武士道の考え方を持った人は明治維新前に多かったですが、これらの精神を参考にしながら、全力で生きることが大事だと説いています。
 また、天災も交通事故や殺傷事件のような人災も、すべてが因果の中で起こっていると理解して、すべての人が現世とあの世でいろいろな役割を分担している中で、今回はそういう役回りになったのだと思うことも必要です。大切なのは「中今(なかいま)」、失敗したことを後悔したりせず、つらい思いを引きずることなく、過去にとらわれずに、たった今を生きることだと書いています。
 

私たちの身体は借り物

Comment ブログ筆者
 ブログ筆者が矢作先生のことを知ったのは8年前に発売された「人は死なない~ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索」(バジリコ)でした。救急・集中治療、外科、内科などで多くの患者の診察をてがけてきた矢作先生が、自分自身の医者としての想いや、仕事を通じて患者から聞いた非日常的な現象や霊性について考察した著作です。
 
 それまでの経験から、いわゆる自分を超えた存在については関心がありましたので、タイトルを見てすぐに購入し一気に読了しました。この本では患者さんが先生に語った臨死体験や体外離脱体験も書かれ、人が肉体だけの存在ではないことを述べています。
 
 既に幽体離脱臨死体験についてはアメリカの精神科医であるエリザベス・キューブラロスやジャーナリストの立花隆さん、坂本政道さんなどが著書で発表していましたので珍しい話ではありませんでしたが、現役(「人は死なない」発表当時)の日本人医師による著書を読むのは初めてでしたので感動しました。
 
 また、「自分を休ませる練習~しなやかに生きるためのマインドフルネス~」(文響社)では以下のようにも著しています。
 「からだは借り物です。私たちは混沌とした世界を生きる上で、からだを一時的にお借りしています。どこから?もちろん、天から。創造主からと考えてもよいでしょう。まずはこの事実に気づくこと。気づけばこの先、もっとからだを大事に扱えます」。
 どうでしょうか。このような発想、少し楽になりませんか。

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